セムコスタイルとは何か?業績と働きがいが飛躍的に高まる組織の作り方を徹底解説
ブランドコンサルタント・中江 翔吾
「セムコスタイルって何?」
「セムコスタイルのメリットとデメリットを知りたい!」
「業績と働きがいが同時に高まる組織へと移行する方法を知りたい!」
あなたの会社は業績だけではなく、働きがいも高い組織でしょうか?
社員が意欲高く、主体的に、目を輝かせながら仕事をしていて、離職率も低いでしょうか?
恐らくこの問いに対してハッキリと「YES!」と答えられる会社は、世界を探してもほとんどないと思います。
というのも、この
業績と働きがいを両立させる
ということは組織マネジメントの世界でも不可能とされてきたからです。
従来の組織マネジメントの理論で重視されてきたことは
いかに数値管理やPDCAを回すことを徹底させて、社員の生産性を高めて、業績アップに繋げるか?
ということです。
確かに、数値管理やPDCAを回すことを徹底させて、短期間で売上を上げていくことはできるでしょう。
ですが、その成果の裏では、社員の意欲や働きがいが失われているので、多くの場合
- 離職率が高まり、優秀な人材から会社を辞めていく
- 指示待ちで主体性の低い社員しか残らない
- 社長がいないと会社が回らない
- 仕事への意欲が低く、何度指摘しても同じミスを繰り返す社員が多い
- 何度伝えても、目標にコミットしない社員が多い
といったような組織的課題を抱えるようになってしまいます。
社員の意欲が失われていけば、たとえ、今の時点で売上が上がっていったとしても、長期的には衰退の一途を辿ります。
じゃあ、業績と働きがいを同時に高めるような組織は作れないのか?
そんな問いから生まれたのが「セムコスタイル」という組織マネジメントのメソッドです。
私は組織づくりをサポートする際にこの「セムコスタイル」というメソッドを使います。
これはSEMCO社というブラジルの会社が実践していた組織マネジメントのノウハウで、同社はこのメソッドを使い
- 平均年間成長率147%
- 離職率2%
- 就職人気企業ランキング第1位
というこれまで不可能とされていた、業績と働きがいが同時に高まる組織を作ってしまいました。
このあまりにもすごい実績と、これまでにないユニークな組織運営の方法は、世界から注目を集め、SEMCO社にはIBMやフォードや京セラなどの大企業のCEOが多く視察に訪れたり、ハーバード大学をはじめとした76の大学でも研究対象にもなり、出版された書籍は100万部を突破しました。
その後、同社の組織マネジメントのノウハウは「セムコスタイル」というメソッドとして体系化され、世界12カ国に普及し、国内でも数十社以上に導入され
- 単月売上過去最高1300万円から2000万円にUPし、平均離職率30%を超える業界で離職率3%を実現(歯科医院)
- 売上昨年対比150%を達成し、採用コストが1500万円から400万円に(化粧品メーカー)
- 年間売上目標達成率が80%から150%に大幅アップし、営業の成約率が20%から40%へとアップ(動画制作)
- 従業員一人当たりの平均売上が過去最高になり、3年以内の新卒離職率が50%から3%にダウン(コンサルティング)
- 半年間で離職率が17%から0%へとダウンし、経営者の意思決定率を100%から60%に下げながら、1500万円の売上アップ(事業プロデュース)
といったような実績をあげています。
今回はこの最先端の組織マネジメント理論「セムコスタイル」について解説したいと思います。
この記事を読んでいただければ、セムコスタイルに関する基礎的な知識や具体的な事例だけでなく、具体的にどう実践に移していけばいいのかまでが分かるようになっています。
ぜひ、最後までお読みください!
1.セムコスタイルとは
まずは「セムコスタイルとは何か?」について解説をしていきたいと思います。
1-1.セムコスタイルについて
「セムコスタイル」というのは、SEMCO社のCEOのリカルド・セムラーが開発した組織マネジメントの1つの手法です。
リカルドは21歳の時に、舶用ポンプなどを製造していたSEMCO社を父親から引き継ぎ、
- 平均年間成長率147%
- 年商4000万ドルから2億1500万ドルに
- 従業員数が90名から3000名に
- 平均離職率30%超のブラジルで離職率2%を達成
- 国内就職人気企業ランキング第1位を獲得
するなど、これまで両立が不可能とされていた「業績」と「働きがい」を両立させてしまった経営者です。
リカルドの組織運営は今でも主流を占めるトップダウン型ではなく
- 組織階層がなく、公式の組織図が存在しない
- ビジネスプランもなければ、企業戦略、短期計画、長期計画といったものもない
- 会社のゴール、ミッションステートメント、企業理念、長期予算がない
- 決まったCEOが不在ということもよくある
- 副社長やCIO、COOがいない
- 標準作業を定めていないし、業務フローもない
- 人事部がない
- キャリアプラン、職務記述書、雇用契約書がない
- レポートや経費の承認をする人がいない
- 作業員を監視・監督しない
といった特徴を持った、これまでにない方法で組織を運営していました。
この特徴だけを聞くと、
組織が崩壊するのではないのか?
と思われる方も多いと思いますが、リカルドはこの組織運営のスタイルをとってから、先ほどの結果を出すことができました。
このユニークな組織運営と実績があまりにも凄かったため、リカルドの組織マネジメントの方法は、ハーバード大学を初めとした世界76大学の研究対象になったり、IBMやフォードや京セラといった世界の大企業のCEOが度々視察に来るようになりました。
SEMCO社は、前回のブログ記事でも紹介した『ティール組織』の事例としても取り上げられています。
リカルドの組織マネジメントの方法は『セムラーイズム』『奇跡の経営』『奇跡の組織』といった書籍としても出版され、世界100万部を超えるベストセラーになりました。
その後、オランダのコンサルティング企業が、リカルドの組織マネジメントの方法を「セムコスタイル」というメソッドとして体系化し、現在、日本を含む世界15カ国で、ライセンスパートナー企業や私のようなセムコスタイル認定コンサルタントの手によって、導入する企業が増えていってます。
セムコスタイルを取り入れた企業は従業員数20名から3000名超までおり、
- 病院
- 銀行
- 美容機器メーカー
- 製造業
- コンサルティング
- WEB制作
- 広告代理店
- 運送業
- ソフトウェア開発
といった業種業界でも導入されています。
1-1-2.セムコスタイルの組織マネジメントの特徴
では、セムコスタイルの組織マネジメントの特徴について、従来の「トップダウン型組織」と比較しながらお話していきます。
今現在、世の中に存在する組織の95%以上は「トップダウン型」と呼ばれるスタイルで組織が運営されています。
トップダウン型組織は
- リーダーが計画・意思決定・指示・管理をする
- メンバーがリーダーの指示に従う
という形で、リーダーとメンバーで明確に役割を分けて、組織の目的やゴールに到達しようとする組織です。
トップダウン型組織では
- 効率
- 成果
- スピード
を最重要視します。
リーダーの指示にメンバーが従い、結果責任はリーダーが負う
という約束事があれば、トップからの意思疎通もスムーズで、様々な個性を持つメンバーが集まっても、短期間で同じ目標・目的を追いかける集団に変えていくことができます。
また、仕事の方法や進め方についてもマニュアルなどで厳格にルール化されるため、仕事の品質を一定以上に保つことができます。
このトップダウン型組織のマネジメントというのは、1900年代前半の大量生産・大量消費社会の到来と共に現れました。
このトップダウン型組織は
いかに同じ品質のものを大量に作れるのか?
という時代の要請に応えることに向いており、先進国は物が溢れる豊かな社会を築き上げることができました。
ですが、このトップダウン型組織には
- 従業員の意欲や働きがいが低くなる
- 効率重視と前例踏襲が進み、組織が画一化し、激しい変化に対応できない
- 思考停止・指示待ちのメンバーが増え、人が育たない
といった反作用もあり、テクノロジーの急速な進歩や価値観の多様化が進む変化が激しい時代には上手く機能しないということが増えてきます。
このトップダウン型組織では、確かに一定の業績を短期間で上げることはできるのですが、長期的には、メンバーの意欲が低くなり、生産性が下がり、離職も多くなってしまうという問題点を抱えているということです。
実際に、米ギャラップ社が日本で実施した従業員のエンゲージメント調査では
- 熱意ある社員:6%
- 熱意が低い社員:71%
- 熱意が全くない社員:23%
というような結果も出ています。
トップダウン型組織の「業績が上がった」という背景には、従業員の「意欲」や「働きがい」が犠牲になっている場合が多く、リカルド・セムラーも
死んだ魚のような目をして働く、自社工場の作業員
を見て、組織改革に乗り出したと語っています。
では、リカルド・セムラーが生み出した、これまでにない組織マネジメントとはどのようなものか?
それが「セルフマネジメント型」と呼ばれる組織マネジメントスタイルです。
セルフマネジメント型組織では、一部のリーダーだけが意思決定し、責任を負うという形ではなく、メンバー全員が組織の目標や目的や顧客に向かって、意思決定をし、責任を引き受け、行動していくという形で組織が運営されます。
もちろん、メンバーは最初からリーダーの方と同じ水準の適切な意思決定が出来る訳ではないので、少しずつトレーニングしながら、組織に最善の利益をもたらす意思決定ができるようにしていきます。
組織において重要なことは、組織が目指す目的・目標が達成できるかどうかだと思います。
その目標・目的にどのように到達するのかが違うということです。
トップダウン型組織では一部のリーダーだけが意思決定に関わり、結果責任を追いますが、セルフマネジメントスタイルでは、全員が意思決定に関わり、全員が結果責任を負う民主的な仕組みになっているということです。
組織が追いかける目標・目的が達成できるのであれば、そのやり方はメンバーに任せていく
というのが基本的な考え方になります。
セルフマネジメントスタイルでは、リーダーのサポートを受けながら、メンバーの方は、仕事の目標や目的、方法や期限といった様々な意思決定に関われるようになり、働き方の自由度も高めていくことができるので、意欲や働きがいを上げていくことができます。
実際に国内でセルフマネジメントスタイルを導入した企業では
- 平均離職率30%を超える業界で離職率3%を実現(歯科医院)
- 3年以内の新卒離職率が50%から3%にダウン(コンサルティング)
- 半年間で離職率が17%から0%へとダウン(事業プロデュース)
といった事例もあります。
また、トップダウン型組織からセルフマネジメント型組織への移行が進むと、メンバーに皆様に任せるだけで、組織が最善の方向へと進むようになるので、リーダーの仕事の負担というのも大きく減ります。
実際にセルフマネジメント型組織への移行が最終段階に達すると、リーダーがほとんど出社しなくても、メンバーに任せるだけで、現場がうまく円滑に回るようになります。
メンバーはリーダーと同じように、組織に最大の利益をもたらす意思決定をするために必要な情報を持ち、判断力を身につけ、必要であればサポートも受けられるからです。
社長であれば、週に2日、それぞれ3時間だけ出社して、他の時間は、自分の見聞や知識を深めるための時間に当てている方も多いです。
トップダウン型の組織では、適切な意思決定ができる優秀な人材が一部に限られるため、その人が会社を辞めると、現場に大きな混乱が生まれます。
ですが、セルフマネジメント型の組織では、メンバー全員が適切な意思決定ができるようにトレーニングするため、誰かが何かの事情で会社を抜けたとしても、現場に大きな混乱が生まれることもありません。
なので、この組織マネジメントの方法だと、「人が育たない」という問題も解消されます。
というのも、どの階層にいるメンバーも常に適切な意思決定ができるようにトレーニングされているので、自然と組織の誰もがリーダーのポジションを担えるようになるからです。
そんな組織運営は理想論で、実現するのは不可能でしょう
と思われる方もいるかもしれませんが、実際に全世界で数百社を超える企業が、この方法で組織運営をしています。
1-2.セムコスタイルのメリットとデメリット
では、次にセムコスタイルのメリットとデメリットについて解説をしていきます。
1-2-1.セムコスタイルの4つのメリット
まずは、セムコスタイルのメリットについて。
意欲が飛躍的に高まる
まず、1つ目のメリットというのが「意欲が飛躍的に高まる」ということです。
人の意欲の源泉は
状況をコントロールできる。所有している
という感覚を持てる「オーナーシップ」にあります。
トップダウン型組織のメンバーの意欲が低くなってしまうのは、階層によって「オーナーシップ」の差があるからです。
トップダウン型組織では、階層によって与えられている「権限・情報・責任」が違います。
社長は、誰よりも強い権限を持って
- 今年の売上目標をどうするのか?
- どんな商品・サービスを企画するか?
- 給与をどうするのか?
- どのような社内ルールを作るのか?
- どんな社長室で仕事をするのか?
- 誰をリーダーとして採用するのか?
といったことに関して、自由に決めることができますが、階層の下にいる一般の社員はこういった意思決定に関して関与する権限を与えられていません。
たとえ、上記の事柄に関して問題意識や関心を持っていたとしても関わったり、変えていくことができないので、必然的に「オーナーシップ」は低く、意欲も低下するというわけです。
ですが、セルフマネジメント型組織では
メンバーのオーナーシップを高める
ことを念頭に、組織を運営していきます。
リーダーと同じように、メンバー一人一人が適切な意思決定をするための「権限・情報・責任」を解放し、
目標・目的を達成できるのであれば、やり方はメンバーに自由に任せる
という考え方で組織を運営するので、仕事の自由度は飛躍的に高まります。
また、最終的にメンバーのリテラシーが高まり、意思決定の責任を引き受けるマインドセットができてくれば
- 今年の売上目標をどうするのか?
- どんな商品・サービスを企画するか?
- 給与をどうするのか?
- どのような社内ルールを新たに作るのか?
- どんな社長室で仕事をするのか?
- 誰をリーダーとして採用するのか?
組織のあらゆる方向性に関して、興味・関心を持つメンバー全員が関われるようになっていくので、必然的に、働く意欲は高まっていきます。
離職率が大幅に下がる
従業員の働く意欲が回復し、働きがいも高まっていくと必然的に離職率は大幅に下がります。
セムコスタイルを導入した国内企業でも半年から1年間の取り組みで
- 離職率30%の業界で離職率3%を実現
- 3年以内の新卒離職率50%から3%に
- 離職率17%から0%に
というような事例もあったりします。
離職率が高いのは経営者が悪いわけでも、従業員が悪いわけでもありません。
これは組織構造の問題です。
組織構造をトップダウン型組織からセルフマネジメント型組織に変えるだけで、離職率が高いという問題は解決していきます。
業績が飛躍的に高まる
また、メンバーの仕事に対する意欲が高まると、主体性を持って、仕事で結果を出そうと奮闘するようになるので、離職率が下がるだけでなく、結果として業績も伸びていきます。
セムコスタイルを導入した国内企業の事例では
- 売上昨年対比150%を記録
- 単月売上最高1300万円から2000万円に大幅アップ
- 成約率が2倍になり、売上目標達成率80%から150%にアップ
- 新卒社員一人当たりの年間の付加価値総額が2倍に
といったようなものもあります。
熱意ある社員が6%しかいない
というのは、社員の潜在能力をまだ6%しか引き出せていないということです。
もし、「熱意ある社員が100%」となったら、どれだけ業績が高まるのかは想像に難くないでしょう。
創造的イノベーションが自然と起こる
セルフマネジメント型組織の
目標・目的を達成できるのであれば、やり方は任せる
という考え方は、組織全体の創造的イノベーションが起こる土壌をもたらします。
例えば、それはホームエンターテイメント業界世界No.1の「Netflix」の事例を見ると明らかです。
Netflixには
上司を喜ばせようとするな。会社にとって最善の行動を取れ
という哲学があり、意思決定の権限と責任がリーダーではなく、メンバーに委ねられています。
なので、例えば
認知度が低いメキシコでユーザー数を爆発的に増やすためにどうするか?
という課題があった時に、ある一人の広報担当スタッフが
メキシコでNetflix主催の映画コンテストを開くのはどうか?
というアイディアを考え出しました。
具体的には、メキシコのスター俳優や有名監督を起用した映画を10本ノミネートし、10人のメキシコの有名人に審査員になってもらい、彼らのSNSなどを通じて投票を呼びかけて、得票数の1位・2位の作品には、Netflixが1年間、世界中で配信する契約を結びます。
そして、映画コンテストの最後には、メキシコの有名人を大勢招いたパーティを開き、そこにマスコミを殺到させようという案です。
この案に対して、そのスタッフの上司は反対でした。
というのも、一度、ブラジルでNetflix主催の映画コンテストを開きましたが、大してユーザー数は増えず、プロモーションは失敗に終わったからです。
ですが、Netflixでは、意思決定の権限と責任はリーダーではなく、メンバーに委ねられているので、そのメンバーは、社内の反対意見に耳を傾けながら、ブラジルと同じ轍を踏まないように、この案を押し進めました。
そして、プロモーションの結果は、大成功に終わりました。
映画コンテストまでの数週間はSNSはこの話題で持ちきりとなり、開会式と閉会式にもマスコミが殺到し、
メキシコでNetflixのことを知らない人などいない
という状態にまで認知度が拡大し、ユーザー数も爆発的に増えました。
これは恐らくトップダウン型組織では起きなかったイノベーションです。
これがトップダウン型組織だと
その案は過去に失敗した事例があるから、却下
と上司に突っぱねられて、終わっていたでしょう。
トップダウン型組織は、あくまでも特定のリーダーの価値観が優先されるので、
こんなこと思いつきもしなかった
という従来の固定概念を覆すようなアイディアは試されない場合が多いのです。
セルフマネジメント型組織では意思決定の権限と責任がメンバーに委ねられているので、メンバー一人一人が一つ一つの意思決定に真剣に向き合います。
なので、角度が高い創造的なアイディアが多く試されるのです。
経営者を含めたリーダー層の仕事の負担が大きく減る
セルフマネジメント型組織では、リーダーがこれまで担っていた
- 計画
- 意思決定
- 指示
- 行動管理
- 結果責任を引き受ける
という役割をメンバー全員ができるようになることを目指していきます。
メンバーはリーダーのサポートを受けながら、少しずつ、意思決定の機会を与えられ、適切な意思決定ができるように成長していきます。
メンバーが組織にとって最善の利益をもたらす意思決定ができるようになっていくと、リーダーがいちいちメンバーの代わりに
- 意思決定
- 指示
- 行動管理
をしなくても、組織は自走できるようになっていきます。
実際にセルフマネジメント型組織への移行が最終段階に達すると、リーダーがほとんど出社しなくても、メンバーに任せるだけで、現場がうまく円滑に回るようになります。
メンバーはリーダーと同じように、組織に最大の利益をもたらす意思決定をするために必要な情報を持ち、判断力を身につけ、必要であればサポートも受けられるからです。
社長であれば、週に2日、それぞれ3時間だけ出社して、他の時間は、自分の見聞や知識を深めるための時間に当てている方も多いです。
1-2-2.セムコスタイルのデメリット
これだけ多くのメリットがある「セムコスタイル」にはデメリットはあるのでしょうか?
一つ挙げるとしたら、トップダウン型組織からセルフマネジメント型組織への移行にはそれなりの時間が必要だということです。
例えば、これまでずっとトップダウン型で運用していた企業がいきなり
来月から全面的にセルフマネジメント型組織へ移行したい
と言っても、ほぼ不可能です。
というのも、セルフマネジメント型組織へ移行するときにまず重要になってくるのは、失われた従業員の意欲や信頼関係を取り戻すことから始めないといけないからです。
セルフマネジメント型組織の運用原理は
メンバーに意思決定を任せていくこと
です。
メンバーが組織にとって最善の結果をもたらすような意思決定ができるようになるためには、仕事に対する熱意やメンバー同士で助け合う信頼関係が必要です。
まずは、それを取り戻していくだけでも最低でも半年〜1年ほどはかかります。
ですが、この半年間だけで、離職率などは劇的に下がることが多いです。
例えば、セムコスタイルを導入した国内企業で、
- 半年で離職率が17%から0%に下がった
- 新卒離職率が50%から3%に下がった
というような事例もあったりします。
トップダウン型組織からセルフマネジメント型組織への完全な移行は、2〜3年かけてじっくりと改革を行っていきます。
ですが、この時間をかけることによって、業績も働きがいも飛躍的に高まる理想的な組織が手に入るのであれば、取り組む価値は十分にあると思います。
1-3.セムコスタイルを導入するには?
では、セムコ社のような会社を作りたい場合、リカルドの著作に書かれていることをそのまま取り入れれば良いのか?というと、そういうわけではありません。
セムコスタイルはあくまでも、セムコ社だったらこの方法が機能したということだけに過ぎません。
重要なポイントは
自分たちで、自分たちにあった組織を作り上げていく
ということです。
セルフマネジメントスタイルは、顧客に向かっていくために、チームや個人の才能を使いながら、自主性を尊重し、会社経営を行っていくということです。
なので、自分たちにあった方法を自分たちで考え、作り上げていくことで、自社にとって最善な方法を見つけることができます。
それを私たちは「X-STYLE」と呼んでいます。
自社らしいスタイルという意味で、Xには皆さんの会社の名前が入ります。
私のようなセムコスタイル認定コンサルタントは
このX-STYLEって何だろうか?
ということを、共に見つけていくコンサルティングを行っています。
とはいえ0から考えるわけではありません。
リカルド・セムラーは
セルフマネジメントスタイルを実現するために重要な原則がある
と教えてくれました。
原則とは「物事における普遍的な法則」のことです。
例えば、ダイエットは体重を減らすという目的のもと
摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やしていく
という原則があります。
この原則を守らなければ、体重を落としていくことはできません。
例えば
摂取カロリーを増やし、消費カロリーを減らす
というのでは、太っていく一方です。
だから、原則を守ることが重要になってくるわけですが、「摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やしていく」という原則を実現していくダイエットの方法は様々あります。
この原則を守るダイエット方法であれば、必ず、ダイエットで結果を出すことができます。
原則とはそういうものです。
これと同じように、セルフマネジメントを実現するための原則があるということです。
それが、時計回りで
- 信頼の原則
- 代替コントロールの原則
- セルフマネジメントの原則
- 徹底的なステークホルダーアライメントの原則
- 創造的イノベーションの原則
という5つの原則です。
私たちはこの5原則のことをセムコ社の名前を取って「セムコスタイルの5原則」と呼んでいます。
この5原則を使うことで、セルフマネジメント型組織を実現することができます。
そして、この5原則を守り、セルフマネジメント型の組織を実現していくことができれば、
- IMPACT :顧客・社会に対する影響力
- PERFORMANCE: 生産性・業績
- HAPPINESS:働きがい
という3つの領域を飛躍的に高めていくことができる組織が作れるので、次にこの5原則について解説をしていきます。
2.セムコスタイルの5原則と15の柱
では、次にセムコスタイルの5原則と15の柱について解説をしていきたいと思います。
セルフマネジメント型組織を実現するためには
- 信頼の原則
- 代替コントロールの原則
- セルフマネジメントの原則
- 徹底的なステークホルダーアライメントの原則
- 創造的イノベーションの原則
という順番に従いながら組織改革を実行していく必要があります。
また、15の柱というのはそれぞれの原則を実践するためのアクション項目だと思ってもらえれば大丈夫です。
2-1.信頼の原則
まずは、セムコスタイルの原則その1「信頼の原則」についてお話していきたいと思います。
リカルドはセルフマネジメントスタイルを実践していく上で、この「信頼」が最も重要であると話しています。
信頼とは
- 信じて頼りにすること
- 頼りになると信じること
です。
組織は
同じ目的に向かって一丸となり、目的を達成するための人々の集まり
と社会学では定義されています。
私たちが組織を構成するのは、様々な人の知恵や力を結集することによって、一人では決して達成できないようなことを達成していくことができるからです。
そして、そのために重要なのは、組織を構成する人たちが、仕事に情熱を持ち、才能や能力を発揮していくことです。
目の前の仕事に不平・不満だけを言い、協力するのではなく互いの足を引っ張り合い、モチベーションが低く、才能や能力を発揮できていなければ、どれだけ人が集まっても、その組織は何も成し得ないでしょう。
組織を機能させるために、最も必要なのが「信頼」です。
「信頼」は、言い換えるならば、無条件に相手の未来を信じることです。
- この人に任せておけば大丈夫
- この人ならやってくれる
- 部署が違っても、同じ目的のために絶対に協力しあえる
そんな無条件の「信頼」は、組織に所属する人に意欲を与え、同じ目的を達成するための協力関係を生み出します。
一方で、信頼関係がなければ「溝」や「壁」が生まれます。
例えば、
こいつは何を任せてもダメだ
こいつは会社のお荷物だ
などと、上司が部下のことを信頼していないとします。
上司は自然と部下に対するあたりがキツくなり、部下が上司に報告や相談がしにくくなれば、仕事上の問題の発見が遅れるということが起きるかもしれません。
他にも、信頼関係がなければ、部署同士の対立も起きやすくなります。
例えば
どうせ話し合っても、議論は平行線で、良い解決策なんて見つかる訳がない
なんて思っていれば、それぞれの部署は、自分たちの優先したい論理だけで動き、
営業文句とサービス実態が乖離してる
なんてクレームが発生することだってあるでしょう。
目的のために、協力した方が効率的なのに、信頼関係がないことによって、それができないという事だって起こるということです。
組織内の力や叡智を結集し、目的を達成するために重要なのは、上司と部下という縦の関係、同僚間・部署官という横の関係で、「信頼」が結ばれることです。
そうすれば、目的を達成するために、相互で助け合いが起こるようになり、結果として、組織の生産性が上がるだけでなく、やりがいもアップします。
信頼関係が結ばれれば、人間関係のストレスもなくなるでしょう。
では、信頼関係はどうやれば、結ぶことができるのか?
リカルドは信頼を築く上での最重要ポイントとして
あなたから信頼すること
を挙げています。
つまり、相手から信頼されることを待つのではなく、自ら相手のことを信頼すると言うことです。
まず
- 自分が相手のことを信じて頼りにすること
- 自分が相手のことを頼りになると信じること
が大切です。
なぜ、自分から信頼する必要があるのか?
人には、自分が受けた好意を好意で返したくなるという「好意の返報性」というものがあるからです。
信頼に置き換えて言うならば、人は相手から信頼されると、その信頼に応えようとするということです。
双方が信頼することによって、初めて信頼関係は構築されます
。
つまり、メンバーから信頼されたいのであれば、皆さんからメンバーのことを信頼することが重要です。
とここまで話を聞いた方の中には
それは理想論。メンバーの行動やスキルによって、相手のことを信頼できない
と思われる方もいるかもしれません。
ですが、「信頼できるかどうか」は、メンバーの行動やスキルと一切関わりはありません。
「信頼」と似た概念に「信用」があります。
「信頼」と「信用」は違います。
信用とは、過去の結果からその人にその能力があるかを判断することです。
ここで重要なのは、過去の結果(行動やスキル)です。
一方で、信頼とは、相手の未来を無条件で信じることです。
信頼は相手の未来を無条件で信じてあげることなので、メンバーの行動やスキルは関係ないのです。
相手が新入社員であっても
きっと、この人ならこの仕事をうまくやり遂げてくれる
と信じることはできます。
もちろん、この仕事のレベルは、新入社員のスキルや行動といった過去の結果に基づいて決めます。
つまり、信用で決めるということです。
ここまでが、第一の原則である「信頼」の概要についてでした。
では、どのようにしたら信頼の厚みは増していくのでしょうか。
信頼の厚みをましていく上で重要なことは三つあります。
その三つのことを私たちは「柱」と呼んでいます。
- フィルターをかけない透明性
- 力の格差の縮小
- 大人を大人として扱う
これら三つが信頼の原則に紐づく三つの柱です。
2-1-1.フィルターをかけない透明性
まず一つ目の柱が「フィルターをかけない透明性」です。
フィルターをかけない透明性とは、メンバーが自律的・主体的に行動ができるように、メンバーのことを信頼して、メンバーが意思決定する上で、必要な情報を透明にするということです。
情報は人に
意思決定し、正しく行動する力
を与えます。
例えば、パーソナルトレーニングジムを経営しているとします。
恐らくそのジムがトップダウン型の組織であれば、新しく入ったばかりのスタッフは
ダンベルを新しく購入する
という簡単な意思決定すら1人ではできません。
基本的には、上司に意見を進言し、相談して、買うことになると思います。
では、なぜ、新人スタッフがこの意思決定を1人ですることができないのか?
それは、この新人スタッフに、会社の経営計画、財務状況、所属店舗で使える年間予算などの情報が不足しているからです。
もし、仮にこのスタッフに上記の情報があれば、1人で購入を決断することができたでしょう。
もちろん、全ての情報を透明にする必要はありません。
例えば
今日、どこでランチを食べたとか?
休みの日に何をして過ごしたのか?
などを全体に公開したところで何の意味もないからです。
重要なのは、スタッフが知ることに意味のある情報を公開することです。
意味のある情報は透明にすればするほど、信頼感が生まれやすくなり、意味のある情報を隠せば隠すほど不信感は生まれやすくなります。
「どんな情報を開示すべきか?」は企業によって変わってきますが、
- 経営戦略
- 財務情報
などは、組織に所属する全ての人に開示しておくことは「信頼」を形成していく上で非常に有益です。
通常、こういった情報はCEOやCFOなど、経営に関わるメンバーだけに開示されるのが一般的ですが、
この企業はどんな方向に向かおうとしているのか?
というような経営戦略が分からなければ、組織に所属するメンバーの方はどう思うでしょうか?
もしかしたら、組織の未来がどうなるのか分からないので、不安を抱えながら仕事をするかもしれません。
また、財務情報を公開することも、有益なことです。
多くの企業はこの財務情報を開示しないため、従業員は
なぜ、私の給与はこの金額なのだろう?
ということに対して疑問を持っています。
当然、そんなことは公然と主張することはできないので、不満やモヤモヤを抱え込んだまま、働き続けることになります。
ですが、財務情報を公開し、ちゃんと、自分の頑張りが給与に反映されていることが分かれば、そういった過度な不満もなくなります。
情報を透明にすることの目的は、メンバーが自律的に行動できるようにするためです。
ですので、メンバーにとってわかりやすい形で、メンバーが必要な情報を必要な時にアクセスできる構造を作ることが重要です。
また、情報をオープンにしても適切に情報を扱えないメンバーがいるかもしれません。
ですので、メンバーが情報を適切に活用できるようにトレーニングをすることも必要です。
例えば、セムコ社では、働いているメンバー全員に財務教育を行なっています。
それは、掃除のおばちゃんも含めてです。
誰に対して、どんな情報をオープンにするのかについては自社スタイルですので、ぜひ考えてみてください。
2-1-2.力の格差の縮小
次の2つ目の柱は「力の格差の縮小」です。
力の格差とは、縦方向、横方向における「壁」や「溝」のことを言います。
縦方向において、力の格差があり過ぎるとどうなるのかというと、上司が言うことは絶対となり、部下からアイデアや意見を出すことができなくなります。
横方向において、力の格差があり過ぎるとどうなるのかというと、ある部署は発言権を持っていて、他の部署はその部署が行ったことに従わなくてはいけないということが起きるかもしれません。
こういった「壁」や「溝」をできるだけ縮小していくことが、組織内における「信頼関係」の醸成に繋がります。
力の格差を生む最初の要因は「特権」です。
特権とは、ある特定の人や、特定のチームだけが持っている権限のことを言います。
例えば、社長で言えば社長室であったり、ある部署で言うと採用する権限というのがあるかもしれません。
そういったさまざまな特権の中には
- 業務上必要な特権
- 力の格差を生む特権
の2種類があります。
ここで言ってるのは、力の格差を生む特権は、できる限りなくしていきましょうということです。
例えば、縦の力の格差を考えた時に、社長室を例に挙げると、社長は社長室で仕事をする、他のメンバーは一般的なデスクで仕事をするとなった時に、社長室があることによって、メンバーは社長とのコミュニケーションが取りにくかったり、社長は偉い人だと思うことによって、社長と私たちという対峙構造が生まれることによって、協力関係が生まれにくくなるということがあるかもしれません。
実際に、セムコ社ではリカルドが社長になった際に、父から譲り受けた豪華絢爛な社長室がありました。
リカルドは社長室が何のためにあるのか、本当に必要なものかどうかを考えた上で社長室をなくしました。
メンバーにとってフリーアドレスで働けた方がいいよねと考え、リカルド自身もメンバーと同じデスクで働くようにしました。
フリーアドレスにすることによって、メンバーもリカルドも相互に会話することによってアイデアや解決策を考えることができ、そのほうがメンバーのパフォーマンスや幸福度が上がると考えました。
本来は同じ目的やゴールに向かって協力するのであれば、力の格差を生む特権はなくしていきましょうということです。
信頼関係を作るために、特権をなくしていく必要がありますが、全ての特権を取り払い、メンバー全員がフラットな関係にしましょうということを言っているのではありません。
業務上に必要な特権は残した上で、残していく特権に関しては
どういった目的や意図があるのか?
という情報を透明にしていく必要があります。
例えば、財務、会社のお金を引き出すということに関しては特定の部署やメンバーが持っていた方がいい特権かもしれません。
誰でもお金を引き出せるように権限を全ての人に渡すと会社としては大変なことになってしまうかもしれません。
皆さんの組織ではどんな特権があるでしょうか?
そして、重要なのは「特権をなくす」だけでは、力の格差は縮小しないということです。
力の格差を縮小していくためには「心理的安全性」を作っていくことも重要です。
この「心理的安全性」を組織内で作ることはGoogleでも推奨されており、その意味するところは
無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ
と信じられる状態のことです。
たとえ、特権を手放したとしても
お前、なぜ、こんなミスをしたんだ?会社にどれだけの損害を与えたのかわかっているのか?
と怒号を飛ばしたり、
おまえ、その質問はどれだけ調べて、練り上げて、確証を持って話してるんだ?俺の時間を無駄にするな
と、強くあたってくるリーダーであればどうでしょうか?
恐らく、特権を手放したとしても、従業員の方は「力の格差が縮まった」とは感じないでしょう。
なので、特権を手放すのと同時に
タブーはないよ。何を言ってもいいよ。どんな突飛な質問や意見をしてもいいよ
というような雰囲気を作っていくことが大事です。
特権を削減していくことで、こういった「溝」や「壁」をなくし、目的のために協力する体制を作っていくのが、2つ目の柱です。
2-1-3.大人を大人として扱う
そして、3つ目の柱が「大人を大人として扱う」です。
皆さんは、日頃メンバーの方々に対してどのように接しているでしょうか。
大人を大人として扱うとは、相手を自分の行動についての責任を果たすことのできる大人として扱い、信頼するということです。
相手のことを大人として信頼することで、メンバーの皆さんも、大人としてその信頼に責任で応えるようになります。
一方で、メンバーを
自分で何も決められない。責任も取れない、能力もない子ども
として扱うと、メンバーもそのように振る舞います。
だからこそ、大人として扱うことが大切です。
相手はどんな人であれ、どんな能力を持っていたとしても
あなたならできる
と、まずは大人として接することが重要です。
そうすることで、メンバーの方は自ら大人として成長しようとするようになります。
なので、大人としての成熟度を高めるための取り組みを行っていくことも重要になります。
2-2.代替コントロールの原則
では、次にセムコスタイルの原則その2「代替コントロールの原則」についてお話していきたいと思います。
代替コントロールとは、ルールや監視など「管理や統制(Control)」とは異なる形で、組織やチームが「制御できている(in Control)状態を実現していく」という考え方のことです。
この「制御できている(in Control)」という状態は
目標や目的を明確にし、合意した上で、やり方をその人に任せる
というプロセスを踏むことで実現していくことができます。
「Control」と「in Control」は発想が根本的に違います。
まず、「Control」という考え方は、第一次世界大戦の頃のアメリカで生まれました。
当時のアメリカは、軍事需要によって、工場では大量生産が求められる時代でした。
そこで、フレデリックテイラーが発明したのが「科学的管理法」というマネジメントの形でした。
彼が考えたのは
- 作業プロセスに応じて、明確な役割分担をして、仕事を分業制にする
- マニュアルやルールなどの方法を厳格に決めて、誰がやっても同じクオリティを担保できるようにする
- 計画者と実行者を分けることによって、実行者は作業をすることに集中できるようにする
といった方法でした。
厳格な方法やルールが決められたことで、製品の質は均一に揃い、作業者は繰り返し、同じ作業をするので、製品を大量に生産できるようになり、組織としての生産性は飛躍的にアップし、この方法が世界に広がったというわけです。
これが「科学的管理法」です。
ですが、リカルド・セムラーは「科学的管理法」などの
「管理・統制」には副作用がある
と指摘しています。
「管理・統制(Contorol)」では、組織の中のルールや上司の指示を忠実に守ることが重要視されます。
そうすると
- オーナーシップが下がり、意欲や働きがいが下がる
- 効率重視と前例踏襲が重視され、組織の画一化が進み、イノベーションが起きにくくなる
- 思考停止で指示待ちのメンバーが増える
といったことに繋がっていきます。
一方で、代替コントロールは
みんな大人なんだから、メンバーのことを信頼して、現場・現場で最適解を見つけられるようにしよう
今の時代にあったやり方とか、お客様に対するサービスのイノベーションなどはリーダーだけでなく、メンバーでも起こせるはず
という考え方が根底にあります。
なので
目的や目標を達成できるのであれば、やり方はメンバーに任せる
ことが基本になります。
例えば、セムコ社の工場でもこんなことがありました。
セムコ社では、工場全体で守っていくルールが決まっていましたが、ライン毎にルールを最適化するように方針を変更しました。
あるラインは、これまで月曜と金曜日に作業があることが決まっていましたが、そのラインに所属するメンバーは、サッカー好きが多く、試合の時間になると、みんなテレビに釘付けになり、仕事が手につかなくなるということが度々ありました。
そこで話し合った結果
お客様のもとに納期や品質を守って製品を届けられるのであれば、働くのは月金じゃなくてもいいのでは?
となりました。
つまり、サッカーの試合の時間に合わせて、他の時間、例えば土曜とかに働いたらいいということにしました。
こんな風に、やり方を上司や会社全体の指示ではなく、自分たちで決めることができる組織はとても少ないと思います。
これも代替コントロールの一つの形ですね。
コントロールは「ルール」によって厳格に管理されている状態です。
一方で、代替コントロールでは、ルールが細かく設定されているのではなく、目的を達成するための大まかな「ガイドライン」が設定されているのです。
ただし、何でもかんでも「ルール」を設定することが悪いと言ってるわけではありません。
ルールとは「致命的な失敗が起きないように」するためには効率的に作用する場面があるからです。
重要なのは、場面・場面に応じて使い分けることです。
例えば、スターバックスでは「ルール」と「ガイドライン」がうまく使い分けられています。
まず、コーヒーの淹れ方については、厳格なルールとマニュアルがあります。
ここに関しては、誰がコーヒーを作っても味にばらつきが出ないように、味に関する品質を最低限担保するためには必要になります。
一方で、接客の仕方に関してはマニュアルが存在せず、最低限のガイドラインしかありません。
ですので、店舗や時間帯によって接客の仕方は変わります。
実際に、朝は急いでいる人が多いため、意図的に会話を少なくしているようです。
一方、お昼頃になると、子連れのママやおばさまが増えるのでコミュニケーションを増やし、一人一人に寄り添った接客を行っているようです。
これは時間帯ごとにマニュアルがあるのではなく、店舗ごとに顧客の特徴に合わせて接客を変えているそうです。
スターバックスが目指すのは「お客様にとって居心地の良い場所を作ること」です。
そのために
どんな接客をすることが最善なのか?
は目の前のお客さんによって変わります。
だからこそ、ガイドラインの方が機能するというわけです。
代替コントロールを実践する上で重要なのが、「なぜをそれをしているのか?」を問い続けるということです。
そうすることで
- ルールでコントロールした方が良いこと
- ガイドラインだけを示し、インコントロールした方が良いこと
が見えてきます。
では、ここからは代替コントロールの原則に紐づく三つの柱について解説をしていきたいと思います。
2-2-1.官僚主義を取り払う
まず、代替コントロールを実現していくための一つ目の柱が「官僚主義を取り払う」ことです。
会社では、より効率的に業務を進めたり、より円滑に現場を回していくために、様々なルールや取り決めを行っていくことになると思います。
それ自体は悪いことではないのですが、多くの企業では、そういったルールや取り決めを時代に応じてアップデートせずに、意味や目的を失っているにも関わらず、慣習的になんとなく残していることが非常に多くあります。
官僚主義を取り払うとは、そういった目的や意図のわからないルールや取り組みを撤廃することです。
目的や意味のわからないルールがありすぎると、組織は段々と官僚主義化していきます。
組織が官僚主義化するとは、ルールや前例によって、組織に所属するメンバーががんじがらめになり、変化に柔軟に対応できなくなる状態を意味します。
例えば
このアイディアを実践すれば、顧客が喜び、会社の評判や業績アップに繋がる
と分かっていても、そのアイディアを実現するために
- 大量のプレゼン資料作成
- 様々な上司へのお伺い
- 関連部署との膨大なミーティング
社長のハンコなど様々な手続きが必要だった場合、面倒なので、そのアイディアは実行せずに、そっと胸の内にしまっておくという行動になりがちです。
そのルールや取り組みに明確な目的や意図がある場合は良いのですが、意外と明確な目的や意図がなく「当たり前」になっていることが多くあります。
例えば、これは実際にあった事例ですが
旅行で休暇を取る時は、訪れる観光地や滞在ホテルの連絡先、交通機関の便名など、詳細に日程表を提出しなくてはいけない
という取り組みがあったとします。
聞くだけでげんなりする取り組みですが、こういった取り組みがあったときに
なぜ、このルールが必要なのか?他にやり方はないのか?
を都度都度問い直し、メンバー内で他のやり方を考えることが重要です。
こういった会社の取り決めの変更に、会社のメンバー全員が参画できるようになると、会社の所有感が増し、
私が動いても会社は変わらない…
というような諦めはなくなり、社員はより会社に貢献する動きをするようになります。
皆さんの組織の中で「当たり前」になっている取り組みは何でしょうか?
官僚主義を取り払うには、次のことを考えることがポイントです。
- 会社が「コントロール」していると感じることは何か?
- メンバーに意図や目的が伝わっていないと感じるルールや取り組みは何か?
- それらが、本来 “インコントロール” したいことは何か?
- なぜ行うのか?本来の意図や目的は何か?
- 意図や目的を実現するための代替案は何か?
これが、代替コントロールの一つ目の柱「官僚主義を取り払う」です。
2-2-2.自主自立
次に代替コントロールの第2の柱「自主自立」について。
自主自立とは、任された仕事が納期に間に合うように遂行されている限り、どのような形で進められるかは本人に任せるというものです。
なぜ、方法を本人に任せる方が良いのかというと、人によって「生産的な働き方」や「効率的な仕事の進め方」は違うからです。
例えば、社内にウェブサイトのデザインを行うチームがあるとします。
当然ですが、所属しているWEBデザイナーはそれぞれ、スキルだけでなく、性格、得手不得手、集中できる環境は違います。
例えば、1人のWEBデザイナーの最も生産性が高い働き方は、午前中にカフェで仕事をすることかもしれませんし、また別のWEBデザイナーは、夜にオフィスに出社して、朝まで働くことかもしれません。
この2人がベストパフォーマンスを発揮することだけを考えるのであれば、もしかすると、毎朝9時にオフィスに揃って出社することは、実は効率的ではないかもしれません。
仕事において重要なのは、品質と締め切りです。
それさえ守っていれば、あとのやり方は、メンバーに任せる方が効率的だということです。
品質と締め切りを守っていくには、任せていく仕事に関して
- どんな結果が求められるのか?
- 品質を担保するために何が重要か?
- 成果物はいつまでに必要なのか?
の3点を事前に決めておくことが重要です。
とはいえ、メンバーによって成熟度は異なるので、いきなり「全て自分でやっていい」となると、現場で混乱が起きる可能性があります。
なので、最初のうちは、上司がメンターという形で、部下に関わり、合意した仕事の目標を達成できるようにサポートしていくことが必要になってきます。
あくまでも、目的はメンバーに仕事を任せることではなく、メンバーが主体性を発揮し、お客様に満足・感動していただけるような価値を提供することです。
2-2-3.コントロールの分散
代替コントロールの三つ目の柱は「コントロールの分散」です。
コントロールの分散とは、ある特定の人やチームが全ての意思決定を行うのではなく、各チームやグループで意思決定ができるようにすることです。
つまり、誰かに集中している力を分散するということです。
トップダウン型の組織だと、基本的には権力が一部の人やチームに集中する「中央集権型」になっているかと思います。
優秀で強いリーダーがいる場合、物事を迅速にパワフルに推し進めていくこともできますが、その反作用として、メンバーの「主体性」や「やりがい」や「柔軟な対応力」は低くなっていきます。
またいわゆる「仕事のできる」特定のリーダーに意思決定権が集中していると、その人がいなくなった時に、組織として機能しなくなる可能性が出てきますし、リーダーの決断と責任範囲が広くなりすぎると、正しい決断や柔軟な対応ができにくくなっていきます。
そこで「中央集権型コントロール」に取って代わるのが「分散型コントロール」です。
「分散型コントロール」は、先ほども言ったように、ある特定の人やチームが全ての意思決定を行うのではなく、各チームやグループで意思決定ができるようにすることです。
「分散型コントロール」はこれまで特定のリーダーに任されていた決断と責任の範囲が分散されるので、リーダーの負担も減りますし、柔軟な対応もできるようになっていきます。
また、メンバーがより大きな意思決定に関われる機会が増えれば
会社は自分の行動次第で変えていける
という確信が持てるので、モチベーションと働きがいもアップしていきます。
2-3.セルフマネジメントの原則
では、次にセムコスタイルの原則その3「セルフマネジメントの原則」についてお話していきたいと思います。
セルフマネジメントの本来の意味とは
マネージャーに管理・支持されることなく、自らの仕事の仕方を決め、仕事に関する意思決定を行うこと
です。
これを組織マネジメントに落とし込むと、
社員を信頼し、マネージャーに管理・指示されることなく、主体性を発揮して、仕事に関するあらゆる意思決定を自ら行えるようにする
という組織の在り方になります。
「セルフマネジメント型」の組織では、トレーニングを積むことで、各メンバーは「顧客に対して迅速に最大限の価値を提供する」ことを目的としながら、主体性を発揮し、正しい行動と決断ができるようになっていきます。
その結果として、一部のリーダー層だけでなく、組織に所属するメンバー全員が
- 顧客主義になる
- 業績向上にコミットする
- 主体的に考え行動する
ということが起こります。
また、それに伴って、リーダーシップは特定の人が発揮するものではなく、現場の状況に応じて、各メンバーがそれぞれで発揮していくことになります。
セルフマネジメント型に移行するために、リーダーはそれぞれのメンバーに指示を出すのではなく、組織の目的に沿った正しい意思決定ができるようにサポートする、コーチになることが求められていきます。
「トップダウン型」から「セルフマネジメント型」への組織形態の移行は一気に行われるものではなく、徐々に移行するというプロセスを歩みます。
具体的には「トップダウン型」→「セルフオーガニゼーション型」→「セルフマネジメント型」という3つのプロセスを歩みます。
「トップダウン型」は、一部のリーダー陣が会社の戦略も戦術も全て決め、従業員の行動を管理していきます。
次の「セルフオーガニゼーション型」は戦略はトップが決め、そのやり方などの戦術はチームに任せていくというものです。
そして、最終的には、戦略も戦術もチームに任せていくことにより、「セルフマネジメント型」への移行が完了します。
「トップダウン型」から「セルフマネジメント型」へ移行するために、重要になってくるのは、メンバーが自分1人で、組織にとって正しい意思決定と行動ができるようにサポートしていくことです。
これまで、トップダウンの色が強かった組織が、所属するメンバーにいきなり
明日から、全て仕事は任せるから。自由にやって
と伝えても、メンバーは困惑するだけです。
メンバーに仕事を任せるということは、これまでリーダーがやっていた意思決定もメンバーが正しくできるようにならないといけません。
つまり、メンバー自身の成熟度を上げていくことが大切になってきます。
その際に重要な役割を果たしていくのが
- チームコーチ
- スキルコーチ
という2つの役割です。
コーチとは、相手が達成したいゴール・目的に自らの力でいけるようにサポートをする人のことです。
まずは「チームコーチ」について。
チームコーチは、チームメンバーが自立的に意思決定をし、問題を解決し、目標を達成できるようにサポートをすることが役割です。
今まで、リーダーだけが考えてきたプロジェクトに対する問題解決の方法や目標の達成方法を、メンバーだけで考えられるようにしていきます。
なので、チームコーチは答えを与えるのではなく、メンバーに問いかけをして、自ら考え、正しい意思決定をできるようにすることが大切です。
次に「スキルコーチ」について。
これは仕事における、具体的なスキルの成熟度をアップさせるためのコーチです。
各メンバーの具体的な仕事のスキルが高まれば、意思決定できる範囲も広がり、より組織に貢献できるようになっていきます。
こちらもチームとして、同じ目標達成するために
自分だったらどんなスキルが必要か?
を考え、それの獲得をサポートしていきます。
ここでは、教えるとかトレーニングをするといった要素が強くなります。
重要なのは、「上司」「管理職」と言われていた、リーダー、マネージャー層の人たちが「コーチ」の役割として、メンバーをサポートするということです。
では、次に、セルフマネジメントスタイルへの移行を加速する3つの柱について解説をしていきたいと思います。
2-3-1.才能開発
まず1つ目の柱が「才能開発」です。
セルフマネジメントスタイルを機能させるためには、組織に所属するメンバーの仕事に対する成熟度を上げていくことが重要です。
というのも、
自分1人では、顧客にとって、組織にとって何が有益なのか判断できない
自分1人では決めた成果物を期限までに納品するスキルが足りない
というような状態では、セルフマネジメントスタイルは機能しないからです。
つまり、必要なのは、組織に所属するメンバーの才能を発見し、能力を最大限開花することです。
では、人の才能はどうやったら開発するのか?
その鍵となるのはその人の現在の能力ではなく「興味・関心」です。
まず、重要なのは人の才能は「強制」や「指示」では開花しないということです。
絵を描くことが嫌いで嫌いで仕方ない人は、絵の才能を開花させることはできません。
逆に、絵を描くことが好きであれば、それに取り組む時間は楽しくて楽しくて仕方なくなり、
もっと上手くなるにはどうすればいいか?何が必要なのか?
というような意識が働くことも相まって、時間と共に、絵を描く能力は向上していくでしょう。
つまり、組織に所属するメンバーの才能を開花させるためには、個人の興味・関心をベースに、組織内における役割に就いてもらうことが重要になります。
リーダーがコーチとして、メンバーの才能を見つけるサポートをすることが重要で、彼らが
- 今、何に興味・関心があるのか?
- 将来どんなことをしたいのか?
といったことを会話の中で聞いていき、本人の才能が発揮される役割を一緒に探していくことが重要です。
興味・関心をベースに仕事をすると、人は主体性を発揮し、今まで自分の中に眠らせていた才能を開花させるようになっていきます。
2-3-2.コミットメントの文化
2つ目の柱が「コミットメントの文化」です。
これは目標を達成するために、一人一人が自分の役割にコミットする風土を作るということです。
コミットメントとは、自らが約束したことを宣言通り、結果としてもたらすことです。
つまり、チームとして目標達成をするために、一人一人が自分の役割に対する責任を果たすということです。
これがなければ、仕事を任せ、目標を決めるものの、それが達成できないという状態が続いてしまうので、結果として、組織が機能しなくなります。
そして、重要なのはコミットメントは「させられるもの」ではなく、「自らする」ものです。
そのためにも、コミットメントの文化をつくるためには、メンバー個々人の興味関心をベースにした、達成可能な目標をメンバーと合意できる環境が必要です。
自分はチームにどんな貢献をするのかを言える状態にするということです。
また、個人の目標を達成することだけでなく、チームとしての目標を達成できるように、お互いに信頼し合い、コミットメントすることが重要です。
ゴールはチームで目標達成をすることであるので、メンバーの目標達成をお互いに助け合いながら達成するということです。
そして、個人のコミットメントを引き出すためには、目標を大きく上回る成果をもたらした時には、それに対して支払われる明快な報酬システムが重要です。
成果を挙げたとしても、それに対して何の対価もなければ、メンバーは自ら目標を達成しようとは思わないからです。
例えば、コミットメントの文化を醸成する上で、おすすめなのは「GRIT MTG」という取り組みを3ヶ月に1回行うことです。
この「GRIT MTG」では、3ヶ月先のチームの目標を全員合意して定め、それに紐づく個人目標も自分で設定するというミーティングです。
このチーム目標を達成するための個人目標は自分で決めることができるので、自然とコミットメントが生まれやすくなります。
また3ヶ月に1回のミーティングだけでなく、チーム内で週次のミーティングも行い、今の目標の進捗状況や困っていることなどをすぐに共有でき機会も頻繁に作ると、目標を立てっぱなしで、実行されないことにはなりません。
うまくいってないところがあるのであれば、どうやったら達成できるかをお互いにサポートしながら、問題解決を行っていきます。
2-3-3.同僚間の力
3つ目の柱が「同僚間の力」です。
ここでいう同僚とは、同期ということではなく、同じ目的に向かって活動しているチームメンバーのことを言います。
この柱は、チームとしての目的・目標を達成していくために、所属するメンバー同士の評価をし合うことで、「良いところ」は評価し、参考にできるところは参考にしたり、「改善できること」は改善するというフローを生むことで、チーム力を更にアップさせる取り組みです。
いわゆるフィードバックの文化ですね。
一般的な企業であれば、フィードバックは、上司から部下に対して一方的に行われるものですが、そうではなく、チーム全体の評価、チームメンバー内での個人評価、部下から上司への評価なども行います。
このフィードバックは大前提として、互いの成長のためであり、給与に関する評価とは切り離す必要があります。
給与と紐づいていると、こんなことを言ったらメンバーの会社からの評価が変わるんじゃないかとなり、本音を伝え合わないということが起きやすくなるからです。
また、フィードバックはお互いを否定し合うために行うわけではありません。
成長のためなので、素晴らしいところと、実行すると、さらに素晴らしくなることを伝え合います。
ちょっとした言葉の違いですが、「できていないところ」ではなく、「さらに素晴らしくなるところ」としてお互いに伝え合います。
そして、メンバーからのフィードバックを受けた上で、
- 新しく始めること
- やめること
- 続けること
を考えます。
セルフマネジメントが進んでいる企業には、こういった「フィードバックの文化」が存在しています。
例えば、ネットフリックスにもフィードバックの文化がある訳ですが、
フィードバックは、相手を助けようという気持ちでやりましょう。指摘や否定をするのではなく、具体的な行動変化を促すために行いましょう
という大前提があります。
人としての好き嫌いを全面に押し出した、互いの悪いところを指摘し合うフィードバックは、チームメンバーの信頼関係を崩壊させてしまう恐れがあるので、フィードバックをする大前提を共有していくことが非常に重要になります。
ここまでがセルフマネジメントの3つの柱についてでした。
2-4.徹底的なステークホルダーアライメントの原則
次に、セムコスタイルの原則その4「徹底的ステークホルダーアライメント」についてお話していきたいと思います。
アライメントとは
- 同じ方向に向いている、整っている状態
- 合意されている
という2つの意味があります。
組織として何か物事を進めていく上で、このアライメントがしっかり取られていることで、目標に力強く進むことができます。
シンプルです。
10人のチームで、プロジェクトを進める際に目指す方向性に関して何も合意せず、指示されたまま納得感もないまま、それぞれが別々の方向を向きながら物事を進めるのか。
それとも目指す方向性に関してしっかりと合意形成した上で、納得感を持ちながら、同じ方向を向いて物事を進めるのか。
どちらの方が目標や目的により近づきやすくなるかは、言うまでもありません。
徹底的にアライメントが取れている状態とは
目指す方向性に関して、利害関係者の中で徹底的な合意がされている
状態のことを意味します。
ここまでに3つの原則について学んできましたが、3つの原則はチームやメンバーに自由を与え、主体性を発揮することに寄与します。
ですが、ただ、自由を与えるだけでは、組織に所属するメンバーが自分の好き勝手な方向性に進む可能性があり、本来組織として目指したい方向性に向かうことができません。
なので、各チームが組織として「同じ目標」に向かうために。まずは「アライメント」を取ることが重要になってきます。
これは社内だけなく、社外を含めた全ての利害関係者とアライメントを取ることが重要です。
トップダウン型の組織モデルでは、リーダーは組織の方向性を強制的に揃えることができますが、セルフマネジメント型では、特定のリーダーが組織の方向性を強制的に揃えるのではなく、チームメンバーで話し合い、合意形成を図ることで、方向性を整えることを目指していきます。
組織が向かう方向性に関しても、メンバー全員が主体的に関われるようになると、それを実現するためのコミットメントも起きやすくなります。
では、一体、何に対して、どのようなアライメントを取れば良いのか?
アライメントを取った方が良い事項は様々ありますが、その中でも、真っ先に取り組むべきなのは、
なぜ、私たちはこの事業をしているのか?
という社会の公益性も踏まえた上での組織の存在意義「ビジョン」についてのアライメントです。
ブランディング・コンサルタントの江上隆夫氏によると、ビジョンとは以下の要件に当てはまるものです。
- なぜこの事業を行なっているかの答え
- 企業としての社会の中での本質的な役割が表現
- 私たちの夢であり、公共の夢でもある
- 自分たちがその言葉に共感でき、静かな喜びを感じる
- 他にはないオリジナリティがある
- 時間の経過に耐え、長期の使用が可能である
- わかりやすく、誰もが理解できる
- 形容詞が少なく、短く、コンパクトにできている
これに当てはまれば当てはまるほど、効果的なビジョンになります。
また、ビジョンが定まると、チームの目標も、個人の目標も自然とそのビジョンに準ずるようになっていくので、日々の業務がビジョン達成に向けて、力強く向かっていくことにもつながります。
ここからは、4つ目の原則に紐づく、3つの柱についての解説を行なっていきます。
2-4-1.共通の土台
まず1つ目の柱が「共通の土台」です。
共通の土台とは、チームメンバーの共通の興味・関心を土台にアライメントをとっていくことを意味します。
アライメントは合意形成であり、合意形成は「押し付け」や「強制」であっては意味がありません。
「押し付け」や「強制」ではコミットメントが発生しないからです。
例えば、プロジェクトを始める際に
- 本プロジェクトにおけるあなたの興味・関心は何か?
- 何を成し遂げたいのか?
- 何のためにこれを行うのか?
- このプロジェクトの目的/ゴールは?
- 必要な役割は何か?
- 誰がどの役割を担当するか?
- それぞれのコミットメントは何か?
- 具体的アクションは?
といったことに関してアライメントを取ります。
自分の興味・関心をベースに、ここまで最初にアライメントを取るからこそ、任せる方も任せられる側も安心して仕事を進めることができます。
2-4-2.外→内の視点
2つ目の柱が「外→内の視点」です。
「外→内の視点」とは、外の世界(顧客)の視点を中に取り入れながら、アライメントを図っていくことです。
徹底したアライメントは、組織に所属するメンバーの興味・関心を土台にした上で、チームや個人の目標・目的・方法の合意を目指していく訳ですが、その時に気をつけたいのが、それについて
顧客がどう感じるのか?
という視点です。
社内の中だけで話し合いをし、合意形成を図ろうとしていると、顧客が望んでいることとは違う方向で話が決まってしまうこともあります。
例えば「お客様にとっての美味しさ、安心を追求し、吟味したものを提供する」という食品スーパーとしてのビジョンがあるにも関わらず、このビジョンとは全く関係がない
アパレルブランドを新たに社内のプロジェクトとして立ち上げよう
としたような場合ですね。
確かに、社員の1人がファッションに興味・関心があり、社内の合意形成を取れるのであれば、こういったプロジェクトも立ち上がることはあり得るのですが、そもそもこのアパレルブランドの立ち上げは、顧客が望むことなのかをあらためて問いかけなければいけません。
外の視点が欠落してしまってる状態で、社内だけで合意形成が取れてしまうと、そのプロジェクト自体が上手くいかなくなることが多いので、常にビジョンに立ち返ることを意識すると良いでしょう。
2-4-3.一貫性
3つ目の柱が「一貫性」です。
この一貫性とは
- ビジョンに対する一貫性
- アライメントしたことに対する一貫性
を意味します。
まず、これは「外→内」の視点とも関わりがあるのですが、組織内で意思決定していく事柄は、全て「ビジョン」と一致する必要があります。
このビジョンと一致しない行動を組織全体として繰り返してしまうと、組織としての体をなさなくなってしまいます。
そして、アライメントは、一度取ったら、それで終わりというものではありません。
アライメントを取ったものに対して、実際にそれが行われるように一貫性を保つことが重要です。
これに関しては、様々なやり方がありますが、一つは、定期的に、各チームやメンバーで、自分たちがアラインしたことに対して、現状どこまで進んでいるのかなどを確認しながら、進めていくという方法があります。
例えば、先ほど紹介した、GRIT MTGなどでチームと個人の全体目標を決めて、その進捗を週次ミーティングで確認し、困っていることなどがあれば、助け合う仕組みを作っており、アライメントをとったことが確実に実行されるような体制をとっていくのがおすすめです。
以上が、徹底的ステークホルダーアライメントの原則になります。
2-5.創造的イノベーションの原則
次は、セムコスタイルの原則その5「創造的イノベーション」についてお話していきたいと思います。
ここでは現状を打開し、組織全体に付加価値をもたらす新しいアイディアが特定の優秀な個人ではなく、組織のメンバー全体から立ち上がってくる「土壌」を築くことを目指していきます。
組織として継続的に「創造的イノベーション」を起こせるようになると、どれだけ市場が成熟化していても、どれだけ市場が激変しても、その企業は特別な価値を持つ存在であり続けることができます。
創造的イノベーションは特定の才能を持つ優秀な個人だけが起こすものではなく、これまでにお話してきた4つの原則が組織の中で文化として根付いていれば、自然発生的に起きていくものです。
想像してみてください。
お互いを信頼し合うことができれば、どんなアイディアも提案できるという雰囲気が組織に根付きます。
代替コントロールが進めば、メンバーが目標達成する方法を自ら考え、指示されなくても正しい意思決定ができるように、個人個人の成長が加速します。
セルフマネジメントがより進めば、メンバーは主体性をより発揮できるようになり、秘められた才能が開花していきます。
徹底的なアライメントを取ることで、組織としての方向性が揃い、より仕事に対する情熱とやりがいが高まることで、更に生産性は上がっていきます。
この4つの文化が根付けば、あっという間に、社内には、対外的に誰もが優秀で誇れる社員しかいなくなるでしょう。
そうなってしまえば、創造的イノベーションは、いとも簡単に起きます。
更にいうのであれば
- クリエイティブスペース
- 継続的実験
- 起業家精神
という3つの柱を意識すると、創造的イノベーションはもっと起きやすくなります。
2-5-1.クリエイティブスペース
まず1つ目の柱が「クリエイティブスペース」です。
これは、イノベーションを起こすための
- 物理的スペース
- 心理的スペース
のことを意味します。
物理的スペースとは、距離や時間などの物理的な余裕のことです。
例えば、業務上で毎日朝9時から17時までの8時間で、常に今すぐやるべき仕事に追われ続ける場合、時間的に目の前の仕事以外のことを考える余裕はありません。
当たり前ですが、そのような状況だと、常識を破壊するような革新的なアイデアは生まれにくいです。
なので、物理的スペースを確保することはイノベーションを起こす上では重要です。
そして、心理的スペースとは、精神的な余裕を意味します。
例えば
上司に怒られるかも
締め切りに間に合わないかも
目標を達成できないかも
といった精神的な不安や恐怖を抱えながら仕事をしていると、そのことばかりが気になってしまい、新しいアイデアを出そうとか、新しい取り組みを提案しようという気には中々なりません。
なので、心理的スペースを確保していくことも重要です。
実際に、革新的なアイディアや製品を生み出し続ける企業は、意図的にこのクリエイティブスペースを用意しています。
例えば、Googleがそうです。
Googleには「20%ルール」というガイドラインがあり、これは
勤務時間の20%は通常業務とは違う時間に、意図的に使いましょう
というものです。
実は「Gmail」というアイディアもこの「20%ルール」から生まれたそうです。
なので、
どのようにしてクリエイティブスペースを用意できるのか?
ということを考えることが非常に重要になってきます。
2-5-2.継続的実験
2つ目の柱が「継続的実験」です。
これは
一度に大きな変化を起こすことを狙うのではなく、組織の中のリソースの中でできる範囲で、小さな実験を重ねていきましょう
というものです。
創造的イノベーションは、大胆に一気に改革を起こすことで発生するように捉えられがちですが、実際は小さな実験と改善を継続的に繰り返すことで生まれることが多いです。
ダイソンの掃除機もプロトタイプの制作を5000回重ねた上で完成した製品ですし、バーミキュラの鍋も失敗作を1万個以上を重ねた上で完成した製品です。
創造的イノベーションを起こすコツは小さく継続的に実験することです。
いくら
いろんなアイディアを試しても良いよ
と言っても、会社の経営の存続に関わるような大きなプロジェクトをいきなり色んな人が始めてしまうと、組織が崩壊してしまうので、小さく継続的に実験するということが大事です。
2-5-3.起業家精神
3つ目の柱が「起業家精神」です。
起業家とは社会課題を特定して、それを解決するために事業を起こすことができる人物です。
この柱では、会社に所属しているメンバーの方々も、自ら会社・組織の課題を特定し、解決するための取り組みを行う精神を自然と養える環境を整えていくことを目指していく項目になります。
従来のトップダウン型の組織では
自ら会社・組織の課題を特定し、解決するための取り組みを行う
ということは経営陣しか行わないのが普通です。
ですが、セルフマネジメント型へ移行していくにあたって、この起業家精神が組織に所属する全ての人が持つようになっていきます。
すると、全てのメンバーが、常に組織全体を見渡し、問題意識を持ち、課題があれば、それを解決するアイディアを提案し、実際に解決できるようになっていきます。
いちいち全ての課題に対してリーダーが逐一指示を飛ばさなくても、各自が最適な判断を下し、勝手に問題が解決されるような強靭な組織が出来上がっていきます。
重要なのは、組織の課題に対して、メンバーが主体的に行動し、解決までできる機会を設けることです。
この機会を設けるだけで、メンバーの起業家精神は育つようになっていきます。
3.セムコスタイルについてのまとめ
今回の記事では、セムコスタイルについての基礎知識やセルフマネジメント型組織を実現するための考え方について様々な角度でお伝えしました。
ぜひ、今回の記事を読んで、自社の組織マネジメントを見直すきっかけにしていただけると幸いです。
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