定着率を上げる方法とは?日本企業の平均や計算方法について徹底解説
ブランドコンサルタント・中江 翔吾
「採用してもすぐに人が辞めていく…」
「定着率が低くなってしまう原因は?」
「どうすれば定着率を上げることができるのか?」
どれだけ一時的に業績が好調になったとしても、従業員の定着率が低ければ、その会社の行末は安泰だということはできません。
というのも、定着率が低くければ
- スキルやノウハウが流出し、社内に蓄積されない
- 余計な採用コストと教育コストが増える
- 会社に対する悪い口コミが広がり、採用難易度が上がる
というような問題を発生させてしまうからです。
また、適切な意思決定ができる優秀な人材から会社を去っていくので、いつまで経っても
社長がいないと会社が回らない
という歪な状態で経営を続けざるを得なくなってしまいます。
会社を長期間、繁栄・発展させることができる企業は、業績が高いだけでなく、従業員の意欲が高く、働いがいを実感できていて、定着率が高いというところが多いです。
今回は「定着率を上げる方法とは?日本企業の平均や計算方法について徹底解説」について解説したいと思います。
この記事を読んでいただければ、定着率に関する基礎的な知識や定着率が下がる原因だけでなく、定着率を上げる方法についてもわかるようになっています。
ぜひ、最後までお読みください!
目次
1.定着率とは
では、まずは「定着率とは何か?」について解説をしていきたいと思います。
1-1.定着率の意味について
定着率とは、入社した従業員が一定期間を経ても会社に残り、働き続けている割合のことです。
定着率の計測は従業員の入社が多い4月を基準にして「1年」「3年」「5年」と計測していくことが多いです。
一般的に定着率が高い企業は
- 従業員満足度が高い
- 働く意欲が高く、一人当たりの生産性が高い
- 優秀な人材が流出せず、ノウハウが蓄積される
- 採用市場において選ばれやすくなる
などのメリットを享受することができます。
一方で定着率が低く、採用しても採用しても人が辞めていくという企業は、従業員満足度が低く、たとえ今売上が上がっていたとしても
- 優秀な人材が流出する
- 指示待ちで主体性が低い社員しか残らない
- 意欲も生産性も低い
- 採用に苦労する
といった問題に直面するようになってしまうので、長期的には業績が下がり、衰退していくようになります。
1-2.定着率の計算方法
定着率の計算方法は
一定期間後に在籍している人数 ÷ 採用時の人数 × 100%=定着率
となります。
例えば、社員を20名を採用し、1年以内に10名が辞めたとします。
この場合の計算式は
10÷20× 100%=50%
となり、この会社の1年以内の定着率は50%となります。
1-3.定着率と離職率の違い
また「定着率」と対の概念に当たるのが「離職率」です。
離職率とは、厚生労働省の雇用動向調査に基づく定義によると
常用労働者数に対する離職者の割合
のことです。
常用労働者とは
- 期間を定めずに雇われている者
- 1か月以上の期間を定めて雇われている者
という2つの条件を満たしている労働者のことなので、この人たちが一定期間にどれだけ離職しているのかという指標が離職率です。
離職率は
離職率=離職者数÷現在の常用労働者数×100%
という計算方法によって導き出すことができます。
例えば、2023年4月1日時点(現在)で50名が自社に在籍をしていて、10人が1年以内に辞めていたとします。
この場合の1年以内の離職率は
10÷50×100%=20%
という計算方式になり「離職率20%」と導き出すことができます。
また、ここで注意したいのが、離職率20%だからといって、定着率が80%ではないということです。
例えば、このケースだと、50名のうち5名が新入社員で、1年以内に2人が辞めたとするのであれば、この企業の1年以内の定着率は
2÷5×100%=40%
で「1年以内の定着率40%」となります。
1-4.定着率の平均について
自社の定着率を見直す上で「定着率の平均値」を見ていくことは大切ですが、公に定着率の平均データを収集している機関はありません。
なので、基本的に自社の定着率のパフォーマンスを見る際は、離職率の平均値を参考にすると良いでしょう。
ただし、先ほども説明した通り、定着率は「100% – 離職率」と単純に表すことはできないので、注意しましょう。
離職率の平均値については「日本企業の離職率の平均とは?離職率が高まる要因や計算方法について徹底解説」で詳しく解説しているので、こちらを参考にしてみてください。
1-5.定着率と併せて把握しておくべきこと
また、定着率を見ていく際に注意したいのが
定着率が高いから良い会社
定着率が低いからダメな会社
とは一概に言い切れないということです。
定着率が高かったとしても、ブラック企業で社長や上司が鬼のように怖くて、中々離職を言い出せない企業だったという場合もあるでしょうし、単純に居心地が良いだけで、生産性が低いゆるま湯の企業だったという場合もあります。
一方で、定着率が低くても
3年でどこの企業でも通用する一流のビジネスマンに育ってこの会社を巣立っていってほしい
という社長の方針があり、従業員満足度も生産性も高いという場合もあります。
どんな組織が理想なのか?
というのは人によって答えが分かれるので、定着率とセットで自分が重要視している指標が達成できているかも併せて見ておくとより良いでしょう。
2.定着率が高い企業の特徴やメリット
では、続いては定着率が高い企業の特徴や定着率を高めるメリットについて解説をしていきたいと思います。
2-1.優秀な人材が長期間活躍し、業績が安定する
定着率が高い企業は、優秀な人材も社内に長く在籍して活躍してくれます。
仕事ができる優秀な人材ほど、やりがいや働きやすさに敏感です。
この部分をしっかりと高めていく施策を行なっていくと、優秀な人材の流出を防いでいくことができます。
定着率が高い企業の優秀な人材ほど
独立する意味がわからない。この会社で働くことの方が価値があるし、幸せだ
と口を揃えて言います。
会社の方針にもよりますが、ここまで優秀な社員に思ってもらえるようになれる企業は例外なく、業績も高いです。
2-2.一人当たりの生産性や付加価値が高い
また、定着率が高い企業は、従業員一人当たりの生産性や一人が生み出す付加価値額が高い傾向にあります。
というのも、基本的に仕事で成果を出すためのスキルは在籍期間と共に熟達していくからです。
また加えて、定着率が高い企業はチームワークが良く、全員が同じ目標・目的を共有しているので、より大きな成果を上げやすいということもあります。
「日本企業の離職率の平均とは?離職率が高まる要因や計算方法について徹底解説」という記事でも紹介しましたが、離職理由の第1位は「人間関係が悪い」ことです。
人間関係が悪いということは、互いが同じ目標・目的を共有せず、助け合いも起きず、互いの足の引っ張り合いをしているということです。
そんなことが起きている企業は、例外なく生産性も付加価値も低く、業績も悪化しています。
なので、一人当たりの生産性や付加価値を上げていきたいのであれば、定着率を見直す必要があります。
2-3.仕事への意欲が高い
定着率が高いということは、従業員が満たされていて、不満や余計なストレスが少ないということです。
不満や余計なストレスが少なければ、本来持っている意欲を仕事に全て注ぐことができます。
離職率が高い企業の従業員は
- 言動が高圧的な上司が嫌だ
- 効率の悪いやり方を続けさせられる
- 自分の本音を言い出すことができない
- 意見を提案しても即座に否定される
- 給与や待遇に不満がある
- 自分が正当な評価を受けていないと感じる
といったような仕事とは直接関係ない領域に不満やストレスを抱えていて、そこに意欲を削られて、目の前のやるべき仕事に全力を注げないということがよく起きています。
従業員の不満やストレスが溢れ出ている状態では
どうすればもっと仕事で成果を上げることができるか?
どうすればもっと会社に貢献できるか?
といった思考にはなりづらく、生産性も低くなる傾向にあります。
会社への不満や余計なストレスがないことは、本来その人が持っている仕事への意欲を引き出すことになります。
2-4.採用・教育コストを削減できる
また、定着率が高まっていくと、採用コストと教育コストを削減していくことができます。
定着率が低いということは、
採用しても、採用しても人が辞めていく
という状態にあることを意味します。
新しく人材を採用することにもコストがかかりますが、人が新たに入ってくれば、もう一度0から仕事について教える必要も出てきます。
あまりにもこの人材の出入りがある場合、膨大な採用コストと教育コストが余計にかかってしまうことになります。
更に言うと、定着率が低い企業は採用市場でのイメージが悪くなるので、採用コストはどんどん跳ね上がってしまいます。
一方で、定着率が高まれば、余計な採用コストや教育コストが不要になるので、その分を他の投資に回すことができるようになります。
採用に関して言うと、従業員の満足度が高ければ、口コミで自社に合う人材を社員が無料で紹介してくれるようになるので、採用コストはどんどん下がっていきます。
3.定着率が下がる原因
では、続いては「定着率が下がる原因」について解説をしていきます。
求人情報メディアを運営しているエン・ジャパン株式会社は、2022年に、約1万人のユーザーを対象に「本当の退職理由」についてのアンケートを実施しました。
全世代の離職理由は以下のようになっています。
- 第1位:職場の人間関係が悪い
- 第2位:給与が低い
- 第3位:会社の将来性に不安を感じた
- 第4位:社風・風土が合わない
- 第5位:評価・人事制度に不満があった
- 第6位:仕事内容が合わない
- 第7位:残業・休日出勤が多かった
- 第8位:福利厚生他・待遇が悪い
離職理由は人によって様々ですが、これらの理由に共通しているのは「自分の思い通りにならない」という不満です。
「給与が低い」という理由で離職した人は、自分が望むような給与をもらえたり、その給与をもらうための道筋がはっきりしていれば、離職しなかったでしょう。
「評価・人事制度に不満がある」という理由で離職する人は、自分が正当な評価を受けていると思える人事評価制度が整備されていれば、離職しなかったでしょう。
ですが、ほとんどの企業で採用されているトップダウン型という組織構造では、多くの従業員が抱える「自分の思い通りにならない」という不満を解消していくことは難しいです。
というのも、トップダウン型組織では階層によって与えられている「権限・情報・責任」に大きな差があるからです。
階層に与えられている「権限・情報・責任」を10点満点で表現するのであれば
- 経営者:9〜10点
- リーダー層:6〜8点
- メンバー層:1〜4点
と表現できるでしょう。
組織の中で誰よりも「権限・情報・責任」を持っているのは経営者です。
なので、経営者は
- 売上目標をどうするか?
- 給与額をどうするか?
- どこで働くか?
- 休みの日をどう設定するか?
- 働き方のルールをどうするか?
- 誰をリーダーとして任命するのか?
- 新規事業として何を始めるか?
などあらゆる領域において、誰よりも強い権限を持って意思決定ができて、自分の思い通りに組織を作り変えていく事ができます。
なので、経営者は、会社の中で誰よりもモチベーションが高いことが多いです。
ですが、メンバー層はどうでしょうか?
こういった領域に関して、意思決定に関わることはおろか、意見すら言い出せない事が多いと思います。
仮に意見を言い出せたとしても、組織にとって適切な意思決定をするための情報を与えられていないので、的外れな提案をする可能性が高く、大抵の場合、即座に却下されることが多いです。
つまり、トップダウン型組織では、一部のリーダー層の思いだけが通りやすく、メンバー層の思いはほとんど通らないという構造になっているということです。
人は
こうなったらいいのにな
という希望があるのにも関わらず、それを実現できない。
自らが行動を起こしても、状況が変わらないという状態に長期間置かれると、どんどん意欲を失っていきます。
これが人材が定着しない本当の原因です。
4.定着率を向上させる方法
では、最後に定着率を向上させる方法について解説をしていきたいと思います。
4-1.セルフマネジメント型の組織構造を採用する
では、定着率を高めるために、どんなことを実行していけばいいのか?
一般的に定着率を高めるための施策としては
- モチベーションアップの研修を導入する
- 人事評価制度を見直す
- 従業員から不満や改善案などのヒアリングを行う
- 1 on 1ミーティングを実施する
- 休暇が取れやすい体制を作る
- 企業の将来性が見えるように全社ミーティングを開く
- 教育体制を外部の専門家を入れながら見直す
といったものが挙げられることは多いのですが、実はこれは根本的な解決に繋がらないことが多いです。
例えば、モチベーションアップの短期研修を導入したとしても、モチベーションが上がるのは研修後の数日だけということも多く、数ヶ月も経てば元に戻ってしまいます。
他にも人事評価制度を一時的に見直したとしても、一人一人価値観が違うので全員が満足するような評価制度を作ることは難しいでしょうし、新しく人が入れば、また新たな不満は出てくるでしょう。
先ほども解説しましたが、重要なのは、どんな階層にいるメンバーも自分の願望や思いを素直に表明できて、それを実現するためのプロセスや仕組みがしっかりあるような組織構造を作ることです。
これは一部のリーダーの願望や想いだけが反映されるトップダウン型と呼ばれる組織構造だと難しいです。
そこでおすすめしたいのが「セルフマネジメント型」と呼ばれる組織構造です。
セルフマネジメント型組織とは、一言で言うのであれば
権限委譲を進め、メンバーに任せても、最高の結果が手に入る
というような自走する組織のことです。
メンバーの意欲が低く、定着率が低いのは、メンバーの意思決定可能領域が狭いからです。
メンバーの意思決定可能領域は、メンバーの意欲と定着率に直結します。
例えば、給与という観点をとって考えてみましょう。
ただ一方的に給与額を通達されるだけの会社なのか。
どの階層のメンバーも率直に自分の希望の給与・賞与額を述べることができて、その希望を元に一年の売上目標を立てて、それが達成できたら全員の希望金額が分配される会社なのか。
どちらの会社のメンバーが意欲高く働いていて、定着率も高いかは言うまでもないと思います。
もちろん、いきなり全ての領域に関して、メンバーに権限委譲を進めて、任せていくというわけではありません。
というのも、メンバーに任せて、適切な意思決定ができなければ、組織にとって大きな損害に繋がる可能性があるからです。
つまり、いきなり売上目標や人事評価制度などの領域の意思決定に関与させるのではなく、最初は、社内イベントや日報の書き方など
- リテラシーが低くても良い
- 組織に大きな影響を与えない
というような領域から任せていきます。
ただ、こういった領域から任せていったとしても、意思決定可能領域は広がるので、自然とメンバーの意欲は高まり、様々な意思決定を繰り返す中で、飛躍的な成長を遂げるようになります。
実際に、トップダウン型組織からセルフマネジメント型組織へ移行したことによって、一人当たりの生産性が4倍以上にアップしたというような事例もあります。
この話を聞くと、
本当にメンバーに任せる組織構造を作って上手くいくの?売上が下がるんじゃないの?
と思われるかもしれないですが、実際に国内の企業でセルフマネジメント型組織へ移行した企業は
- 離職率30%の業界で離職率3%を実現し、単月売上最高1300万円から2000万円に大幅アップ
- 3年以内の新卒離職率50%から3%になり、従業員一人当たりの売上が過去最高に
- 社員の年間の付加価値総額が500万円から2000万円にアップ
- 離職率17%から0%になり、売上も1500万円アップ
- 採用コストが1500万円から400万円にダウンし、売上昨年対比150%を実現
といったような結果も挙げています。
人は誰しもが他人から指示・命令・管理されることにはモチベーションは湧きませんが、自らが決めたことを実行することにはモチベーションが湧くのです。
なので、メンバーが意思決定しても、最高の業績と働きがいを実現する構造を作ることが、根本的な定着率アップに繋がる最短ルートなのです。
4-2.心理的安全性を高める
また、定着率を高めていくために、組織の心理的安全性を高めることも有効です。
心理的安全性とは組織・チーム内において、
率直な意見、素朴な質問、違和感の指摘が、いつでも誰でも気兼ねなくできる度合い
のことです。
心理的安全性が高い組織とは
安心して、気兼ねなく、自分の意見を述べることができる
という組織です。
この心理的安全性という概念は、2012年にGoogleが公表した「プロジェクト・アリストテレス」によって有名になりました。
このプロジェクトで、Googleは社内の数百チームを調査し、最高のパフォーマンスを発揮するチームの条件を探って行った時に
心理的安全性が高いチームは、定着率が高く、収益性が高い
という結論に行き着きました。
心理的安全性が高い職場では
- 誰からも意見や提案が活発に起こる
- 反対意見を歓迎される
- 誰に対しての違和感も伝えられる
- 挑戦することを賞賛される
- 感謝が飛び交っている
- 報連相が早い
- 気軽に上司に相談できる
- わからないことがあればすぐに質問できる
- 失敗しても叱責されず、どう挽回するかを建設的に考えてくれる
- ミーティングでは様々な角度から活発な議論が起こる
- 前例や実績がなくてもアイディアを試せる
といったことが起こりやすいです。
一方で心理的安全性が低い職場では
- 上司に自分の意見を率直に伝えることができない
- 反対意見を伝えることができない
- 空気を読み過ぎてしまう
- 改善案が思いついてもすぐに共有できない
- 違和感を指摘できない
- 問題が発覚したら隠蔽してしまう
- 報連相が遅い
- 前例や実績がないものは即座に否定される
- 新しいことに挑戦しようとすると多くの人から否定される
- わからないことがあっても気軽に質問できない
- 失敗した時に叱責される
- ミーティングで特定の人しか発言しない
- 周りの目が気になる
といったことが起こりやすいです。
心理的安全性が定着率に直結することは上記の特徴を見るだけでも一目瞭然だと思います。
具体的な心理的安全性の高め方について詳しく知りたい方は「心理的安全性の作り方とは?取り組み事例と明日から実践できる7つのポイント」という記事も併せてご覧ください。
5.定着率を上げたいすべての方へ
今回の記事では、定着率についての基礎知識や定着率を上げる方法について様々な角度でお伝えしました。
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