ティール組織とは何か?事例やメリット・デメリット|既存の組織モデルとの比較して解説
ブランドコンサルタント・中江 翔吾
「ティール組織って何?」
「ティール組織の事例を知りたい!」
「ティール組織へと移行する方法を知りたい!」
今日取り上げるのは、ビジネス書大賞2019・経営者賞を受賞したフレデリック・ラルーの『ティール組織』です。
画像出典:https://newspicks.com/
フレデリック・ラルー氏は、マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー、コーチ、ファシリテーターとして独立。その後、2年半にわたって新しい組織モデルについて世界中の組織の調査を行い、本書を執筆しました。
この書籍は
現代の組織の在り方が限界を迎えつつあるのではないか?
という問いから始まります。
組織で骨身を削って働く人々を対象とする調査では
ほとんどの仕事は情熱を向けるものでも人生の目的でもなく、恐ろしく退屈なもの
という結果になります。
また、リクルートワークス研究所の調査でも、「仕事に満足している」と答える人は30%台に留まっています。
実際にこれは、日本でもそうで、国際比較調査グループISSPが2015年に行った調査によると、日本で働く人たちの仕事の満足度は、世界32カ国と地域中28位という低さです。
- 現代の職場であまりにもよく目にするような、病的な状態から解放された組織を作ることはできるのだろうか?
- 政治も官僚主義も、内部抗争も皆無で、ストレスや脱力感、諦めも怒りも無関心もなく、トップでふんぞり返る者も、底辺で単純作業に苦しむ者などいない職場はあり得るのか?
- 仕事が生産的で、充実していて、意義深い新たなモデルを作り出すことは可能なのだろうか?
- 人々の才能が花開き、何かをしたいという強い気持ちが尊重される、そうした情熱的な職場を、学校でも病院でも、企業、非営利組織でも作れるのか?
これが『ティール組織』という本のメインテーマになります
今回はフレデリック・ラルー氏が提示した、これまでにはなかった「ティール組織」について解説したいと思います。
この記事を読んでいただければ、ティール組織に関する基礎的な知識や具体的な事例だけでなく、具体的にどう実践に移していけばいいのかまでが分かるようになっています。
ぜひ、最後までお読みください!
1.ティール組織とは何か?
まずは、「ティール組織とは何か?」について解説をしていきたいと思います。
1-1.ティール組織の重要な問題提起
『ティール組織』という書籍は
現代の組織の在り方は限界に近づいているのではないか?
という問いかけから始まります。
というのも
組織の底辺で骨身を削って働く人々を対象とする調査では、ほとんどの仕事は、情熱を向けるものでも、人生の目的でもなく恐ろしく退屈なものという結果になる(『ティール組織』より)
からです。
実際に、米ギャラップ社が日本で実施した従業員のエンゲージメント調査では
- 熱意ある社員:6%
- 熱意が低い社員:71%
- 熱意が全くない社員:23%
というような結果も出ています。
表立ってはっきりと言うことはありませんが、組織に所属する90%以上の人たちは仕事に対して、上記のような思いを抱いているのではないかと思います。
そして、これは一般層の社員だけの話ではなく、経営者や管理職などのリーダー層も
- パワーゲーム
- 政治的な駆け引き
- 内部抗争
に巻き込まれ、どれだけ業績が上がっても、互いに心身ともに疲弊し、メンバー層もリーダー層も組織内でエゴを追い求めるようになっており、明らかに機能不全を起こしているように見えます。
そこで、著書のラルーさんは『ティール組織』の冒頭でこのような問いかけを行います。
現代の職場であまりにもよく目にするような、病的な状態から解放された組織を作ることはできるのだろうか?
政治も官僚主義も、内部抗争も皆無で、ストレスや脱力感、諦めも怒りも無関心もなく、トップでふんぞり返る者も、底辺で単純作業に苦しむ者などいない職場はあり得るのか?
仕事が生産的で、充実していて、意義深い新たなモデルを作り出すことは可能なのだろうか?
人々の才能が花開き、何かをしたいという強い気持ちが尊重される、そうした情熱的な職場を、学校でも病院でも、企業、非営利組織でも作れるのか?
確かに、こんな組織が作れれば理想です。
ティール組織で目指すのは、まさにこのような理想的な組織である訳ですが、周りを見渡してみても、中々、このような組織にはお目にかかれません。
1-2.従来の組織モデルについて
ティール組織を理解するためには、フレデリック・ラルーが提示した「5つの組織モデル」を理解する必要があります。
人類は、長い歴史の中で、人々が集まって何かを成し遂げる方法を、新たな組織モデルを生み出すと同時に、何度も革新してきました。
1-2-1.衝動型組織
まず、一番最初に登場したのが「衝動型組織」と呼ばれる組織モデルです。
この組織の決定的な特徴は、圧倒的に力を持つ者が組織のトップとなり、「力」と「恐怖」によって人々を従わせ、集団としてまとめ上げるというものです。
組織の最大の関心ごとは「今」であり、目の前の利益を最優先に追いかけるため、計画的に動くというよりもその場の状況に応じて衝動的に動きます。
現代で言うと、ギャングやマフィア、ブラック企業がこのような組織形態をとっているかもしれません。
力こそが全て
の世界です。
一瞬でも隙を見せると、他の誰かに寝首をかかれてしまうので、トップは自分の周りを忠誠心が高い身内で固め、獲物を分け与えて、忠誠を買います。
トップの側近メンバーも自分の配下の面倒を見て、彼らを力で統率します。
この組織モデルは日々刻々と状況が変わり続ける、戦闘地域、破綻国家、無法地帯などでは機能しますが、平和で、安定した環境では生き残ることは難しいです。
というのも、平和で安定した環境では組織を維持するために必要な「恐怖」を与え続けることは難しいですし、衝動型組織では、合理性に基づいた正式な階層も役職も存在していないため、組織を維持していくことは難しいからです。
1-2-2.順応型組織
次に登場したのが「順応型組織」です。
順応型組織は「安定」を最重要の価値観に据える、階層に応じた役割分担と指示命令系統が明確なピラミッド型のトップダウン組織です。
現代で言うと、宗教組織、軍隊、官僚組織などがこれに当たります。
この組織では、計画の立案と業務の執行が明確に分かれています。
トップが計画を考え、決定事項が指揮命令系統を通じて、組織全体に伝達されます。
工場なら、工場長が計画を立案し、部門長に指示を出し、部門長はユニットマネージャーを、ユニットマネージャーはライン・マネージャーを、ライン・マネージャーは作業長を、作業長は機械作業員を管理するというような感じで、組織を運営します。
作業員は上から命令されたことを、ただ忠実に実行するだけで、イノベーションや批判的思考、自己表現は認められません。
そういうこれまでの前例にはない不確定なことをすると、安定が失われるからです。
なので、階層もできるだけ固定し、流動的にはしません。
構成員の統制は力によってではなく、ルールによって行われます。
「安定」を実現するために厳格なルールを作り、所属メンバーはそのルールに順応することを求められます。
遅刻は減給、2回目は停職。3回目は解雇の可能性あり
みたいな感じです。
指揮命令系統がはっきりとして、正式なプロセスが存在し、誰が何をするのかを定めた明確なルールがあり、作業員は命令を忠実に、疑問を挟むことなく実行する。
この順応型組織の登場によって、人類は初めて、中長期の計画を立てられるようになりました。
衝動型組織は、極めて短期志向で、数日後、あるいは数週間後までの成果を待つことができませんが、順応型組織は、完成までに200年もかかる大聖堂の建築、数千マイル離れた植民地に商業を根付かせる交易序ネットワークを作り上げるといった長期プロジェクトにも取り組めます。
人類の文明が急速に発展したのは、この組織モデルのおかげだと言えます。
1-2-3.達成型組織
達成型組織は「目標達成」が最優先の徹底した合理主義の階層組織です。
最善の判断とは、もはや正式な役職が下す判断ではなく、最大の結果をもたらす判断のことに変わります。
階層は流動的となり、成果を上げれば上の階層へと昇進できるようになります。
この考え方はルネサンス期から生まれ、啓蒙主義と産業革命期に、教養人の間で広がりました。
この組織形態に移行すると、人は権威や、集団の規範や、既存の体制や慣習に対して、疑問を抱くことができるようになり、イノベーションを起こすことができるようになります。
恐らく、ほとんどの企業はこの達成型組織という形態をとっているでしょう。
この達成型組織は過度に行き過ぎてしまうと
成果を上げることが全て
という価値観に陥り
- 徹底した数値管理
- 激しい出世競争
- 過重労働の常態化
- 様々なハラスメント
などが起きやすく、長期的には心身ともに疲弊していく構成員が多くなる傾向にあります。
実際に日本企業のほとんどはトップダウン型組織で運営されている場合が多いのですが、様々な調査結果で、「従業員の働く意欲が低い」というデータが出ています。
例えば、米ギャラップ社の調査によると、日本企業で働く社員の中で
- 熱意ある社員は6%
- 熱意が低い社員は71%
- 熱意が全くない社員は23%
というような調査結果も出ています。
1-2-4.多元型組織
多元型組織は「公平性」や「調和」を重要視し、様々に対立する見解をなるべく多く集めて、最終的にはメンバーの総意に基づく決断を目指すボトムアップ型の組織です。
多元型組織は、達成型組織のピラミッド構造の形を残しつつも、権限委譲がはるかに進んでおり、意思決定の大半は最前線の社員に任せ、経営陣の承認なく、重要なことを決めることもできます。
現場から遥か彼方にいる経営陣や専門家が計画を立てるよりも最前線の社員の方が遥かに素晴らしい解決策を導き出せる
という信頼を寄せているというような世界観です。
また、権限委譲が進んだとしても、意思決定を任されるメンバーに関しては、組織の目標・目的に基づいて意思決定がなされるので、組織がバラバラの方向性に走り出すことはありません。
構成員は成果や利益という目に見える数字よりも、大切な「何のために働くか」という目的に目覚めるため、達成型組織よりも意欲や働きがいは高い傾向にあります。
1-3.ティール組織とは
「ティール組織」の最も大きな特徴というのは「階層構造がない」ということです。
従来の4つの組織モデルでは、多かれ少なかれ
リーダーの役割は、組織の目的に応じた意思決定をし、メンバーの行動を管理し、結果責任を負う
という原則は存在し、階層によって与えられている
- 権限
- 情報
- 責任
などに大きな差がありました。
ティール組織ではこういったリーダーとメンバーの「格差」を極力なくし、メンバー自身が組織の目的に応じて、意思決定ができる機会を解放していきます。
- 今年の売上目標はどうするか?
- どんな事業を立ち上げるのか?
- どんな委員会を立ち上げるのか?
- 働き方をどう変えていくのか?
- 自分たちの給料はどうするのか?
といった意思決定にすら参加することができます。
一人のトップの意思が全体に波及するするという硬直した組織ではなく、1つの生命体のように、現場の状況に応じて柔軟に組織が変化していきます。
経営陣が組織を統制して、指揮するという概念はもはやなく、権限を完全に移譲し、組織内に存在する各チームが、集団的知性によって、自身で意思決定をしていきます。
多くの組織では
従業員は本来怠け者で、なるべくなら仕事をさぼりたいものだ。だからルールが必要
と考えますが、ティール組織では
自社で働く全ての社員を正しいことができる道理のわきまえた人々である
という前提があります。
かつては
意思決定をし、メンバーの行動を管理し、結果責任を負う
という役割を持っていたリーダーは、メンバーは組織にとって最善の利益をもたらす意思決定ができるようにサポートする「コーチ」のような役割に変容します。
また、フレデリックラルーは、ティール組織には
- セルフマネジメント(自主経営)
- ホールネス(全体性)
- エボリューショナリーパーパス(存在目的)
3つの共通点があることを指摘しています。
1-3-1.エボリューショナリーパーパス(存在目的)
まず、1つ目の共通点が「エボリューショナリーパーパス(存在目的)」があるということです。
このエボリューショナリーパーパス(存在目的)という概念は一言で言うなら
この組織は何のために存在しているのか?
という組織の存在意義のことです。
各組織モデルは
- 衝動型組織:目の前の利益を手に入れる
- 順応型組織:安定を手に入れる
- 達成型組織:目標を達成する
- 多元型組織:公平と調和を実現する
ということが行動原理となっていましたが、ティール組織では「存在目的を果たしていく」ことが最重要の価値観となります。
これを聞くと、「存在目的」とは、従来の組織でも存在する「ミッション」や「経営理念」のことかと思うかもしれませんが、少し違います。
確かに「ミッション」や「経営理念」はその会社の存在意義や目的を表す概念ですが、多くの場合、これは一部の経営陣がトップダウンで決めた固定的な「存在目的」になります。
一部の経営陣がトップダウンで決めた「存在目的」を組織全体に浸透させようとしても、多くの場合機能しません。
実際に、朝礼で経営理念の唱和をしているけど、それが実務レベルで反映はできていないというところがほとんどでしょう。
これはティール組織のように、組織を「生命体」として捉える場合に、その「存在目的」は「不自然」だからです。
というのも、組織はリーダーだけでなく、大勢のメンバーがいて初めて成立するものだからです。
「存在目的」は一部のリーダーだけでなく、メンバーも関わりながら
- この組織は、この世界で何を実現したいのか?
- 世界はこの組織に何を望んでいるのか?
- この組織がなかったら、世界は何を失うのか?
といった質問を通じて、導いていきます。
当然ですが、構成するメンバーが変われば「存在目的」も変わるので、常にアップデートしていくことが一つの特徴になります。
1-3-2.セルフマネジメント(自主経営)
2つ目の共通点が「セルフマネジメント(自主経営)」です。
組織は、様々な個性を持つメンバーが同じ「目標・目的」に向かって共に歩んでいく集団のことです。
では、バラバラの個性を持つ人たちがどのようにして歩調を合わせながら、同じ「目標・目的」に向かって共に歩むことができるのか?
従来の組織モデル(衝動型組織・順応型組織・達成型組織)では「トップダウン型」という組織マネジメントのスタイルが取られることで、集団の統率が取られます。
トップダウン型とは
- リーダー:計画・意思決定・指示・管理・統制を実施する
- メンバー:リーダーの意思決定を実行する
という役割に分けて、組織全体を運営していくというマネジメントスタイルです。
リーダーが意思決定を行い、目標を達成するために必要なことを具体的な指示を出し、期日までに指示したことが遂行されるようにメンバーを管理します。
また、仕事の品質を安定させるために、様々なルールを作り、「やっていいこと」と「やってはいけない」ことを厳格にマニュアル化して、統制を図っていくことも特徴です。
多くの組織ではこのようなスタイルが採用されているかと思いますが、進化型組織(ティール組織)ではこのような「管理・統制」をベースにしたスタイルを取りません。
誰か特定のリーダーだけが「計画・意思決定・指示・管理・統制」するというよりも、各メンバーがリーダーに管理・指示されることなく、組織の目的・目標に向かって、自ら仕事の仕方を決め、仕事に関する意思決定を行います。
組織において重要なのは「目的・目標」が達成されることです。
それが達成されるのであれば
やり方についてはメンバーに任せていく
というのが基本的な考え方になります。
ホームエンターティメント業界世界No.1企業の「Netflix」もこのセルフマネジメントの思想に近い形で組織が運営されています。
Netflixでは
上司を喜ばせようとするな、会社にとって最善の行動を取れ
という哲学の元、意思決定の権限と責任はリーダーではなく、メンバーに委ねられています。
例えば、ある広報部門のスタッフが、メキシコではあまり高くなかったネットフリックスの認知度を改善するある施策を考え出しました。
それはネットフリックス主催の映画コンテストを開くことです。
まず、メキシコの有名な監督とスター俳優を起用した既存の映画を10本ノミネートさせ、メキシコの有名人10人に審査員になってもらいます。
審査員は、自身のオススメ作品を紹介するとともに、ツイッター、フェイスブック、リンクトインを使って、フォロワーに投票を呼びかけ、最も得票数の多い映画2本は、ネットフリックスが1年間全世界に配信する契約を結びます。
これによって
ネットフリックスはメキシコのコンテンツも重視する媒体だ
と認識させる狙いがあります。
最後は、メキシコ中の有名人を招いた盛大なパーティを開き、イベントを締めくくります。
ただ、上司はこの案に反対でした。
なぜ、ネットフリックスが制作した訳でもない映画に大金と時間をつぎ込むのかが疑問で、地元映画祭と組んで同じような試みをしたブラジルでは、まるでユーザー数が増えなかったからです。
広報担当者のスタッフは、反対意見に真摯に耳を傾けつつ、ブラジルと同じ徹を踏まないように、映画祭ではなく、地元のインフルエンサーや取引相手と密に連携し、キャンペーンを実施しました。
結果は、大成功でした。
コンテストの開会式と閉会式の記者会見には、多くの報道陣が詰めかけ、表彰式までの数週間、Twitterはコンテストの話題で持ちきりです。
審査員となった有名人はSNSで積極的にメッセージを発信し、映画作品の監督や俳優も支持を訴えました。
最終的には数千人が投票し、あっという間に、ネットフリックスを知らない人などいないという状況を作れるようになりました。
まさに、一般のスタッフが起こしたイノベーションであり、トップダウン型の意思決定プロセスでは起きないことです。
トップダウン型だと
そんなの失敗するからダメ
と却下されて終わっていたでしょう。
意思決定の責任は、上司ではなく、自分に帰属します。
だから、全従業員が、自分が下す一つ一つの意思決定に真剣に向き合います。
案に対する意見を募り、反対意見にも耳を貸し、最後は責任を持って決断するからこそ、意思決定の質は高まるのです。
全従業員が会社の意思決定を下せる立場にいるという点で、全従業員は経営者という意識を持つようになります。
1-3-3.ホールネス(全体性)
3つ目の共通点が「ホールネス(全体性)」です。
これは
偽りの仮面を被る必要がなく、いつでも自分らしさを発揮できるようになる状態
が設定されているということです。
一般的に会社という場で、人は「本来の自分」を押し殺して「仕事用の別の人格」を作り出し、振る舞うことが強制されています。
特に従来のトップダウン型組織では、
リーダーの意思決定が絶対である
という原則があるので、そこでリーダーの意思とは違う個性を発揮してしまえば、組織が成り立たないからです。
トップダウン型組織というのは、あらゆる面で画一化が進むので、高い効率性を生み出しますが、その反面、メンバーの個性は潰していきます。
一方で、ティール組織では、特定の人だけがリーダーシップを発揮するのではなく、メンバー全員が自分の個性を活かしながらリーダーシップを発揮することが求められます。
役職者がリーダーということではなく、仕事の役割に応じてリーダーが変わります。
人によって
- 興味・関心
- 強み・才能
- 苦手なこと
は変わります。
これが個性であり、この個性に応じた役割を果たしてくのがティール組織です。
そうなった場合に「偽りの仮面」や「周りから期待される自分」を演じる必要はありません。
個性を発揮するには
多様性を認め合い、自分を否定されない
心理的安全性が高い環境を作ることが重要になってきます。
2.ティール組織の事例
では、続いては、ティール組織の具体的な事例について解説をしていきたいと思います。
2-1.ビュートゾルフ
まず、一つ目の事例が、オランダで地域密着型の在宅ケアサービスを提供する「ビュートゾルフ」という組織です。
画像出典:https://florence.or.jp/
オランダでは、19世紀以降、どの地域にも病人や高齢者に在宅ケアサービスを提供する地元の看護師がいます。
この地域看護師の存在は、オランダの医療制度にはなくてはならないほど重要な役割を果たしています。
そして、1990年代に
この大勢いる地元の看護師を組織化したらどうだろう?
というアイディアがもたらされます。
地元の看護師はこれまでは自営業者なので、休暇を取ろうと思っても、別の看護師に仕事を引き継ぐということができませんでした。
組織ができることによって、仕事の負荷が調整できるというわけです。
また、一人の看護師が全ての病状の対処方法を知っているわけではないので、組織化することによって、スキルの補完もできるというわけです。
看護師を束ねる組織は、各地で発足し、1995年までの5年間で、合併を繰り返し、急速に規模を大きしました。
この当時の組織モデルは、達成型組織です。
合理的に成果を上げるため、仕事は専門細分化されます。
新規顧客の開拓担当者は、もっと顧客を開拓するために、看護師のケアサービスのやり方に口を出すようになります。
看護師の日々のスケジュールを立てるプランナーを採用し、患者から患者への移動を最適化するようになります。
コールセンターが設置され、その従業員が患者の電話を受けます。
そして、地域マネージャーとディレクターが、現場の看護師を管理するようになります。
彼らは、正確なスケジュール管理を目指し、効率を上げるために、あらゆる種類の処置に、標準時間を設定します。
例えば
- 静脈注射:10分
- 入浴:15分
- 傷の手当て:10分
というように。
効率の向上を監視し続けるために、全ての患者の自宅玄関ドアにはバーコードのついたステッカーが貼られ、看護師は、訪問が終わるたびに、バーコードをスキャンします。
中央のシステムでは、全ての活動の時間が記録され、遠隔地から監視・分析できる仕組みを整えました。
これは達成型組織としては、非常に合理的な仕組みでしょう。
ですが、この組織体制をとることによって何が起こるか?
患者は、かつて存在していた看護師との個人的な信頼関係を失います。
毎日、日によっては何度も、新しい見知らぬ看護師が玄関先に現れ、患者は、自分の知らない、しかも時間がなくて急いでいる看護師に対して、自分の病歴を何度も話さなくてはいけません。
看護師は、処置を最短時間で、手早く済ませ、すぐに次の家へと向かいます。
毎日違う看護師が訪問するため、患者の健康状態の変化に気づくことすらできなくなります。
また、ある地域では
社内薬局の商品を患者に販売しろ
と言ってくるところもあったそうです。
こんな組織で、モチベーション高く働けるわけありませんよね。
看護師は、ケアを求めている人たちの看護をするために仕事を選んでいるのに。
何のために私は働いているんだ?
という無力感・虚無感に苛まれると思います。
これが達成型組織をはじめとしたトップダウン型組織ががもたらす成果の裏にある闇の部分です。
そんな現状を受けて、ビュートゾルフは2006年に設立されました。
ビュートゾルフは進化型組織の典型例として紹介されています。
設立したのは、ヨス・デ・ブロックという、看護師として10年間の経験を積み、ある看護組織でマネージャー兼スタッフにまで昇進した人物です。
ヨスも看護組織で働いているときは、達成型組織の矛盾や闇に触れて、それに悩み、社内からの改革は無理だと悟り、それでビュートゾルフを立ち上げたのです。
ビュートゾルフは、進化型組織のパラダイムを導入し、ケアの在り方と組織の構造を根本から変え、目覚ましい成果も挙げました。
ビュートゾルフの看護師の数は7年間で10名から7000名(オランダの地域看護組織で働く全看護師の2/3の規模)へと成長し、圧倒的に高水準のケアを提供しています。
まず、組織構造から異なります。
ビュートゾルフでは、看護師は10~12名で1チームを形成します
1つのチームでは、以前には部門ごとに専門細分化されていた、あらゆる仕事を担当します。
これまで看護師はケアサービスだけを提供していましたが、1チームで
- 何人の患者を受け持つのか
- 新しい患者の受け入れ
- ケアプランの作成
- 休暇や休日のスケジューリング
- 業務管理
- オフィスをどこで借りるのか
- 現地の病院や薬局とどう連携するのか
- ミーティングをいつ開くのか
- 仕事の割り振りをどうするのか
- 個人やチームの研修計画をどうするのか
- 業績を分析し、生産性が落ちた場合の対応
もチーム内で決定していきます。
チーム内には、重要な意思決定をするリーダーや管理職はいないのです。
重要な判断は、話し合い、チームで決めます。
もちろん、チーム内のメンバーのメンバーの話し合いだけでは、解決できそうにない問題も出てくるでしょう。
ですが、その場合は、外部の助けをいつでも求めることができます。
他のチームのメンバーを呼んでもいいですし、社内SNSを使って、他のチームから提案を求めることもできます。これだけメンバーの数が多ければ、同じような問題にぶつかったチームがあるはずだからです。
優秀な個人的知性よりも、集団的知性の方がより優れた決断ができる
と信じているのです。
なぜ、優秀な決断ができるのか?
意思決定の権限は従業員に完全に移譲されます。
意思決定はコンセンサスではないので、責任の所在は明確になります。
意思決定をする人は、自分考えうる限りの最善の努力をしなければいけません。
意思決定をすることによって、影響が出る人がいるからです。
意思決定をする人は、影響が及ぶ人からは助言をもらわなければいけませんし、助言してくれた人の信頼に答えるように全力で努力します。
だから、最終的には優秀な決断ができるのです。
全員が経営者と言っても良いかもしれません。
結果として、一人の患者に対するケアがバラバラの看護師でに行われることはなくなりました。
一人の患者に対して、常に一人か二人の看護師がつけられるように計画が立てられました。
看護師は、時にはコーヒーでも飲みながら患者と向き合い、患者自身のことや病状を理解するためにじっくりと時間をかけます。
失われた患者と看護師の間の信頼関係は回復しました。
これまで患者とは処置だけの付き合いでしたが、一人の人として扱われるようになりました。
ケアは、身体の問題だけでなく、人間関係や精神面に対しても注意を払われます。
ビュートゾルフの存在目的は
病気の人や高齢者に自主的な、意味のある生活を送ってもらうこと
だからです。
必要であれば、患者が家族や友人や近所の人たちと支援ネットワークを構築することを積極的に支援します。
患者もその家族も、ビュートゾフの看護師から受けたサービスに心から感動し、感謝します。
進化型組織では「成果や利益」ではなく、「存在目的」が最も重視され、それを基準に様々な意思決定がなされます。
皮肉なことですが、「成果や利益」に固執しないからこそ、達成型組織よりも遥かに大きな成果を出すことができています。
実際にビュートゾルフが出した成果は驚くべきものでした。
創業して7年で、オランダの地域看護師と患者の60%のシェアを得るようになったのですから。
また、一人あたりに必要とした介護の時間は、他の達成型の介護組織と比べて、40%近く少なかったのです
質の高い介護を受けることで、病気から早く治り、しっかりと自立できるからです。
ビュートゾルフは従来の達成型の看護組織と比べて、病気を理由にした欠勤率は60%低く、離職率は33%も低いのです。
そして
私たちは自分の仕事を取り戻せました
という声が多く聞かれました。
2-2.FAVI
ティール組織の2つ目の事例が、フランスの自動車製造用の部品、電気モーターの部品、水量計、医療機器などを製造している「FAVI」という会社です。
FAVIは、元々、達成型組織で、堅虍なピラミッド構造がありました。
- 製造部長
- 課長
- 作業係長
- 現場の作業員
がおり、製造部長は経営陣の一員として、営業エンジニアリング、戦略策定、保守、人事、財務の各部長とともに、CEOに直接報告するという立場にありました。
従業員はタイムカードで出退勤を管理され、機械ごとに1時間あたりの生産量を記録され、管理されます。作業員が仕事に1分でも遅れるか、生産量が時間当たりの目標を下回ると、相応の金額が毎月の給料から減らされます。
ルールによって社員を統制していたのです。
それが1983年に、ゾブリストという人物がCEOに就任してから、進化型組織への変革を始めます。
画像出典:https://evolem.com/
ゾブリストは、まず、時間を計測するタイマーを外し、生産ノルマなどの管理統制システムを撤廃しました。
これでは生産性が落ちて、工場が破滅する!
と叫ばれましたが、結果としては生産性が上がりました
工場作業員の話を聞くと、時間ごとの目標値が定められていた時には、意図的に仕事のペースを緩めていたのです。
そうすれば、経営陣が急に目標値を引き上げた時に、少し余裕を持って対応できるからです。
また、作業員たちは、体力的にも精神的にもクタクタになるペースで仕事をさせられてたので、のびのび働いていれば、達成していたはずの生産性を下回り、会社にとっても収益性の低い成果しか上げてなかったのです。
ゾブリストの改革によって、作業員たちは、自然なリズムで働くようになり、生産性が上がったというわけです。
また、タイムカードを撤廃したことによって、仕事に対する意識も大きく変わるようになりました。
タイムカードがあった頃は、作業員たちは作業が終わるとすぐに機械を離れていましたが、今は、自分たちが始めた仕事を終わらせるまでの数分間、半時間を自主的に、当たり前に残業するようになったそうです。
かつては、給料をもらうために働いていましたが、今は自分の仕事に責任感を抱き、仕事をきちんと仕上げることに誇りを持っているそうです。
とにかく信頼し、自然に任せるのです。
プロジェクトも全て自然発生的に生まれ、任せられます。
社内のプロジェクトはクライアントから依頼を受けるものもあれば、社内で自発的に発生するものもあるでしょう。
そして、プロジェクトの管理は、組織の規模が大きくなればなるほど難しくなります。
例えば、数百のプロジェクトが同時に走っていれば、それらを時間通りに、しかも予算内で完成させることは、達成型組織の場合、ほぼ不可能に近いです。
全てのプロジェクトの要求に沿うように、一人の人間が、ガントチャートを駆使し、各プロジェクトの細かな進捗状況を把握し、毎週数百の最適な決断を下すことは、その人がどれだけ有能であっても不可能でしょう。
ティール組織の場合、プロジェクトは、非公式で起こります。
プロジェクト・チームに加わる人は、上からの命令で指示されるのではなく、必要性や重要性を感じた人が、挙手制で決まります。
そのプロジェクトに就くことによって、これまでの自分の業務に支障が出る場合は、それぞれが、役割を他の人に引き継いでもらったり、調整をします。
こういう体制をとると、将来性がなかったり、重要ではないというプロジェクトには、人が集まらなくなり、あっさりと頓挫します。
ですが、それで良いのです。プロジェクトには重要性が高いものと、低いものがあります。
プロジェクトが自然淘汰されていくので、結果として、重要なものだけが残ります。プロジェクトの優先順位を決めるのは経営陣ではありません。
達成型組織では、無意味なプロジェクトがあまりにも多く、長く残る傾向にあります。
現場の人間は
もうダメだという
ことがわかっていても、プロジェクトが整理されると、その責任を取らされるので、誰も目立たないようにして、その結果として、いつまでも残るのです
役割も自然発生的です。
通常、その職場における役割というのは、管理職が指示して決めますが、ティール組織では自発的に、自分で役割を作ることも可能です。
例えば、FAVIでは、フランクという18歳で未経験で入社してきた青年がいました。
彼は元々、機械作業員でしたが、工場で数年働いた時に
もっと積極的に動いて、新しい機械や原料、サプライヤーを獲得すれば、私たちはもっと革新的なことを成し遂げられる
と思いました。
それから彼は「アイディア発掘担当社員」として、働き方を変えます。
彼は世界を飛び回り、およそ一ヶ月に一度の頻度で工場に帰ってきて、自分が発見したことを報告するミーティングを開きます。
そのミーティングに誰が出席するのかは、自由で、出席者はテーマによって、変わります。
従業員が、そのミーティングに出席する価値があると思い、出席してる限りでは、フランクの役割は社内にとって価値のあるものになりますが、彼が出席しなくなったり、ミーティングの出席者がいなくなれば、その役割は自然と消えることになり、フランクは他の新しい役割を見つけなくてはいけません。
機械作業員として、チームに再合流することもあるでしょう。
ティール組織には、昇進や出世競争という概念はありません。
同僚から新しい役割を任せられるか、新しい役割を発明すれば、自分の仕事の範囲は広がり、給料は増えていくというわけです。
役に立つ社員になればなるほど、重要な役割も担えるようになります。
特定の上司に、よく見えるように振る舞う必要もありません。
昇進機会が数年に一度しかないと、人はポストをめぐって戦闘体制に入りますが、ティール組織ではそんなことは起こりようがないのです。
人事評価も、もはや管理職がするものではなく、仲間同士での相互評価になります。
評価形式は様々ですが、基本的には、自己評価を出し、複数人の仲間から評価とフィードバックを受けます。
達成型組織の評価は、通常、社員のやる気を失わせるものになっています。
多くの社員は
自分のことを全く反映してない
と不満を漏らすでしょう
管理職の1視点による評価なので、偏るからです。
ですが、複数人から多面的な評価を受ければ、自分の貢献度を公平に深く認識できるようになります。
給与もこの相互評価に基づいて、決まるので、不公平感は払拭されます。
FAVIは同業他社が中国に生産拠点を移す中、ヨーロッパで唯一残ったメーカーであり、「ギアボックス・フォーク」という製品で市場シェアを50%を記録するようになりました。
また、25年以上、納期に遅れた注文が一つもなく、従業員の給与は業界平均を遥かに上回り、離職率も事実上0%を記録しています。
2-3.SEMCO
ティール組織の3つ目の事例が、産業用工業機械やコンサルティング、不動産などを広く手がけるブラジルの「SEMCO」という会社です。
画像出典:https://www.realone-inc.com/
SEMCOは、1954年に、オイルの遠心分離機の特許を取得し、小さな機械工場として、アントニオ・カート・セムラーが創業し、1960年代後半には、イギリスの舶用ポンプ製造会社2社と事業提携して、ブラジルの造船業界向けの主要なサプライヤーとなり、その後、25年間、舶用ポンプを製造し、ブラジルの海運業を代表する企業となりました。
アントニオ・カート・セムラーは、SEMCOを従業員110名・年商200万ドルの立派なメーカーにまで成長させました。
このSEMCOは1980年に、21歳という若さで、息子のリカルド・セムラーが会社を引き継ぐことになりました。
リカルドは社長に就任し、初めて自社の工場の視察に訪れたときに
みんな死んだ魚のような目をして働いているじゃないか
と工場で働く社員を見て驚愕します。
これは元々、SEMCOが達成型組織であり、成果を上げる反作用として、従業員の意欲や働きがいが長期的には失われていくような組織構造になっていたからです。
それを見たリカルドは「こんな会社なら経営をしたくない」と思い、
どのようにしたらバンドマンがバンドをする時のように、働く人がイキイキと働けるだろうか?
ということです。
リカルドは元々はバンドマンで、バンドをしている時は、リーダーもメンバーも、本番のライブを成功させるために、誰もが楽しくいきいきとバンド活動に取り組んでいたからです。
リカルドはその後、試行錯誤をしながら、組織全体の意欲や働きがいを高め、権限委譲を進めることで、気づけば
- 組織階層がなく、公式の組織図が存在しない
- ビジネスプランもなければ、企業戦略、短期計画、長期計画といったものもない
- 会社のゴール、ミッションステートメント、企業理念、長期予算がない
- 決まったCEOが不在ということもよくある
- 副社長やCIO、COOがいない
- 標準作業を定めていないし、業務フローもない
- 人事部がない
- キャリアプラン、職務記述書、雇用契約書がない
- レポートや経費の承認をする人がいない
- 作業員を監視・監督しない
という従来のトップダウン型組織とはかけ離れた組織モデルを築き上げていきました。
一見、無秩序のように思える組織モデルですが、結果として、SEMCOはたった20年弱で、売上が年商200万ドルから2億1200万ドルへと成長し、従業員数も110名から3000名規模へと成長しました。
平均成長率が年間147%という驚異的な数字を叩き出しながら、平均離職率30%を超えるブラジルで離職率2%を記録し、就職したい人気企業ランキング1位にも選ばれました。
SEMCOの実績と組織モデルがあまりにもユニークだったため、ハーバード大学をはじめとした76大学の研究対象になったり、世界中の大企業(IBM、GE、フォード、バイエル、ネスレ、チェースマンハッタン、シーメンス、メルセデスベンツ、京セラなど)のCEOが視察に来るようになりました。
この組織マネジメント理論は『セムラーイズム』『奇跡の経営』などの書籍で体系化され、全世界100万部を突破する大ベストセラーとなり、リカルドは次世代型組織マネジメントの権威となりました。
その後、このリカルドの組織マネジメントの方法はオランダのコンサルティング企業が体系化し、それが今世界15カ国に波及し、ライセンスパートナー企業や、私のようなセムコスタイルの認定コンサルタントの手によって、日本でも広まりつつあるという訳です。
「セムコスタイル」は国内でも数十社以上に導入実績があります。
3.ティール組織のメリットとデメリット
では、続いてはティール組織のメリットとデメリットについて解説をしていきたいと思います。
3-1.ティール組織の4つのメリット
まず、ティール組織のメリットですが、
- 意欲や働きがいが高まりやすく、離職率が下がる
- 経営者の意思決定率が下がり、組織が自走する
- 変化に柔軟に対応でき、イノベーションが起きやすくなる
- 顧客ファーストになるので、長期的に売上も上がり続ける
という4つのメリットがあるので、少しずつ解説をしていきます。
3-1-1.意欲や働きがいが高まりやすく、離職率が下がる
まず1つ目の「意欲や働きがいが高まりやすく、離職率が下がる」について。
売上は上がっているけど、従業員の意欲や働きがいが低くて、離職率が高い
ことに悩む企業は非常に多いです。
では、なぜ、従業員の意欲や働きがいが低くなってしまうのか?
この原因というのは
トップダウン型組織では階層によってオーナーシップの差がある
からです。
オーナーシップというのは
所有している。コントロールしている
という感覚のことです。
トップダウン型組織では、階層によって与えられている
- 権限
- 責任
- 情報
が異なります。
基本的に、トップダウン型組織では階層の上部に上り詰めるほど、「権限・責任・情報」は大きくなり、トップの社長は自分の興味・関心に従って、誰よりも強い権限を持って物事を推し進めることができます。
- 今年の売上目標をどうするのか?
- どんな事業を立ち上げるのか?
- 誰を採用するのか?
- 給与をどうするのか?
- どんな部屋で働くのか?
といったことに関して、社長は誰よりも強い権限を持って、決めることができます。
一方で、新入社員や何の役職にもついていない階層の下部に位置するメンバーほど、上記の意思決定に関わることはできません。
これが「オーナーシップが低い」という状態であり、従業員の意欲が低くなってしまっている原因です。
なのでトップダウン型組織では、リーダー層は働く意欲が高いが、大多数を占めるメンバーの意欲が低いということが起きがちです。
ですが、ティール組織に移行すると、階層という概念がなくなり、メンバー全員に対して
- 権限
- 責任
- 情報
が解放されます。
なので、メンバーは組織内の各チームで話し合い、
- 今年の売上目標をどうするのか?
- どんな事業を立ち上げるのか?
- 誰を採用するのか?
- 給与をどうするのか?
- どんな部屋で働くのか?
といった意思決定にすら関わることができるようになるので、非常にオーナーシップも高まります。
結果として、ティール組織では、全体として、従業員の働く意欲が高く、主体性を発揮でき、働きがいも感じられるので、離職率も低くなる傾向にあります。
3-1-2.経営者の意思決定率が下がり、組織が自走する
また、ティール組織では
リーダーが意思決定を下し、メンバーがそれに従う
ということを原則とした、組織運営スタイルを取りません。
メンバーにも意思決定の機会が解放されるため、経営者の意思決定率が大幅に下がります。
私がいないと何も決まらない
ということに悩む経営者は多いですが、そういった悩みから解放されるということですね。
また、メンバーは、様々な経験や知識を持つコーチから「適切な意思決定」を行うためのサポートを受けながら、意思決定を行うため、意思決定の質も最終的には経営者やリーダー層の方と同水準かそれ以上の意思決定ができるようにもなっていきます。
なので、ティール組織への移行が完全に進むと
メンバーに組織を任せるだけで、社長はほとんど出社しなくても、組織が最善の方向に自走する
ということが起きます。
3-1-3.変化に柔軟に対応でき、イノベーションが起きやすくなる
トップダウン型組織は
リーダーが意思決定を行い、メンバーが従う
という原則があるため、組織構造の性質上、組織の規模が大きくなればなるほど、変化に柔軟に対応していくことが難しくなります。
例えば、全国に店舗展開をする大手の居酒屋チェーンがあるとします。
居酒屋の料理の品質を一律で保つために
料理はこのようなメニュー内容・材料で、このような手順で作りなさい
というようなルールが本部から一括で命令されるとします。
ですが、地域によって、住んでいる人も違えば、人気な料理も違ってくるはずです。
ということを考えていくと、各店舗によって、料理内容や作り方やアレンジなどを柔軟に変えられる方が、もしかしたら売上は上がるかもしれませんが、トップダウン型組織では、そういったことは認められず、仮に本部の人間に提案したとしても、結局、意思決定に時間がかかり、何も動かないということがよく起きます。
まさに、これが柔軟性を欠いている組織の特徴です。
ティール組織ではこのようなことは起こりません。
基本的に、意思決定の権限も責任も各現場で与えられているので、組織全体としての目標・目的を達成できるのであれば、現場の判断で、どんな料理を提供するのかを自由に変えることができます。
なので、各店舗の地域の状況に合わせて、柔軟にメニューを変えることができ、これまで本部のリーダーの人間では考えられなかったような発想のメニューが生まれるといったようなイノベーションも起きやすくなります。
ティール組織ではトップダウン型組織のように
こういう方法でやらなければいけない
というような手段やルールの画一化はされず、そこについては柔軟にチーム単位で変えていくことができるため、激しい変化でも対応でき、様々なアイディアが実験されるため、イノベーションも起きやすくなるということです。
3-1-4.顧客ファーストになるので、熱狂的なファンが生まれる
また、ティール組織は「組織の目的・使命」に向かって、構成員が行動するようになっていきます。
ティール組織というのは、従来の組織モデルよりも自由度は高まりますが、あくまでも
同じ目標・目的を追いかける集団
であることに変わりはありません。
各メンバー・チームが意思決定する際の判断基準とするのが
病気の人や高齢者に自主的な、意味のある生活を送ってもらうこと(ビュートゾルフ)
というような「組織の目的(エボリューショナリーパーパス)」です。
通常のトップダウン型組織というのは意思決定の基準というのが「自分の上司」に向きやすくなります。
これを提案して上司は採用してくれるだろうか
これを提案して上司に怒られないだろうか
といったことを考えながら意思決定してしまうので、上司は喜んでも、顧客が喜ばないということはよく起きています。
会社の一方的な自己都合の取り組みで、顧客が離れていくことはよくありますが、これはまさに顧客ではなく、組織全体として、自分の上司を最優先に意思決定が行われているからです。
ですが、ティール組織に移行すると、上司の顔色ではなく
これをすることで、病気の人や高齢者に自主的な、意味のある生活を送ってもらうことに繋がるのか?
という組織の目的に沿っているかどうかを基準に意思決定がされるので、組織全体として「顧客ファースト」の行動が取れるようになっていくので、熱狂的なファンが生まれるようになります。
3-2.ティール組織の4つのデメリット
では、続いてはティール組織のデメリットについて。
3-2-1.ティール組織には移行するには時間がかかる
まず、一番大きなデメリットは、トップダウン型組織からティール組織に移行するまでに時間がかかるというものです。
例えば
ティール組織に移行したい
と経営者が思っても、1ヶ月後にすぐに組織の構造を変えられるかというと無理です。
ティール組織は、これまでリーダーがやっていた「計画・意思決定・行動・管理」などをメンバー自身が主体的に参画して行なっていく必要があります。
これまではただただリーダーの指示に従っていれば良かったところが
- どんな目標を立てるのか?
- いつまでにその仕事を仕上げるのか?
- どのようにその目標を達成するのか?
- 誰と協力しながらプロジェクトを進めていくのか?
といったことを自らの頭で考えて、メンバーと話し合いながら、合意して決めていかなければなりません。
また、リーダーのポジションだった人も、メンバーが適切な意思決定をして、自分たちで設定した目標を達成できるようにサポートしていく役回りになっていくので、そういった役割の変化も起きます。
つまり、組織全体として「意欲」と「主体性」が求められるようになる訳ですが、トップダウン型組織を長く続けていると、全体的にこの2つというのは低くなっています。
この「意欲」と「主体性」が低い状態で、
- 意思決定に参画させる
- メンバーに方法は任せる
というティール組織の形だけを真似しても、効果的に機能しません。
意欲が低く、主体性も欠如しているメンバーが、適切な意思決定や自身の行動管理などできるはずがないからです。
なので、まず、ティール組織へ移行するのであれば、この「意欲」と「主体性」を回復させる必要があります。
そして、この「意欲」と「主体性」を回復させ鍵というのが組織全体の信頼関係を強固にするということになる訳ですが、
互いが相手の未来を信じられている。この人ならやってくれる。目的のためになら協力しあえる
という信頼関係が結ばれるのには、半年〜1年間くらいはかかります。
そして、その期間を経て、メンバーの意欲と主体性が回復していったタイミングで、ティール組織の形式を取り入れるから上手くいくのです。
なので、ティール組織に移行したいのであれば、このプロジェクトは1〜3年にわたる長期間のプロジェクトになることは覚悟しなければいけません。
3-2-2.トップの意思がスピーディーに全体に画一的には反映されない
また、ティール組織は
自分の思い描いたように組織を動かしたい。私が指示したことに対して異議を挟まず、とにかく実現する組織にしたい
という経営者には向いていないかもしれません。
ティール組織は、メンバーに意思決定を委ねていくことになるので、トップの意思決定率が必然的に下がります。
また、そのメンバーの意思決定に関しても、組織全体の目的に適っているのであれば、方法にも細かな口も出さないのが基本となります。
なので
- どんなことでも組織の最終決定権は経営者が握りたい
- 指示・命令・管理する組織運営が好き
という場合であれば、ティール組織は導入しない方が良いでしょう。
4.ティール組織に関するよくある誤解
では、次にティール組織に関するよくある誤解について解説をしていきたいと思います。
4-1.ティール組織が最上の組織モデルである
ティール組織で、まず、最初によくある誤解が
ティール組織が最上の組織モデルである
ということです。
『ティール組織』では、これまでの時代の変遷とともに、組織モデルが進化してきたという趣旨の話をしているため、漠然と読んでいると
ティール組織こそが最上のモデルだ
という風に解釈してしまう方も多いと思います。
ですが、「何が良いのか?」というのはケースバイケースです。
例えば、
もう3ヶ月後には、会社が倒産してしまうかもしれない
というような緊急事態に対処するのであれば、ティール組織ではなく、達成型組織の方が良い場合もあるかと思います。
とにかく、そういう緊急事態となれば、最優先になるのは「どれだけスピーディーに一定の結果を出すか?」ということになります。
こういう緊急事態になった場合には、優秀なリーダーが先陣を切って指揮を取り、組織全体をスピーディーに一定の方向性へと力強く進ませるというのは有効になるでしょう。
また、とにかく組織全体として
- 安定を維持したい
- 変化を起こしたくない
という場合であれば、順応型組織の方が良いかもしれません。
組織全体として何を求めていくのかによって必要な組織モデルは大きく変わるということです。
4-2.ティール組織に移行すると、階層構造や役職が全て消滅する
そして、2つ目のよくある誤解がティール組織に移行すると
階層構造や役職が全て消滅する
というものです。
確かにティール組織に移行すると、従来のトップダウンの構造というものは薄くなっていき、
- 権限
- 責任
- 情報
といったものに関しては、フラットになっていく傾向にあります。
だからと言って、全ての階層や役職が消滅するという訳でもありません。
どんな階層が残り、役職が残るのかというのは組織によって異なるでしょう。
正当な理由がない、不自然な階層や役職は消えるかもしれませんが、多くの場合、役割が変わることになるでしょう。
例えば、これまで「計画・意思決定・指示・管理・統制」をしていた部署のリーダーは、メンバーがチームとして適切な意思決定ができるようにサポートするような役回りに回るかもしれません。
4-3.ティール組織は業種や規模によっては適用できない
また、ティール組織は、その自由度の高さから、業種や規模によって適用できないと思われがちですが、ティール組織は業種や規模関係なく、機能させることができます。
実際に十数人で構成されるベンチャー企業から、SEMCO社のように従業員が3000人を超えるコングロマリット(複合企業)でも機能しています。
むしろ、組織の規模が拡大すればするほど、「管理・統制」をベースとした、トップダウン型の順応型組織や達成型組織は機能しなくなります。
というのも、組織のリーダーがどれだけ優秀であったとしても、組織が大きくなるにつれて、適切な意思決定をするために把握すべき情報が膨大なものとなり、処理しきれなくなるからです。
従業員が数千人や数万人になったにも関わらず、カリスマ的なリーダーによるトップダウン型の経営を続けていると、大抵の場合、その経営者は朝から晩までミーティング漬けになり、結果として判断を誤るようになります。
トップダウン型組織は短期決戦で物事をドラスティックに変革してくことには向いていますが、長期的な組織運営にはメンバーの意欲や主体性を奪ってしまいます。
業種業界問わず、組織の規模が拡大している企業ほど、ティール組織は参考にした方が良いモデルかもしれません。
4-4.ティール組織を構築するための明確な手順がある
そして、最後に
ティール組織を構築するための明確な手順がある
ということはありません。
ここまで従来の組織モデルに代わる、ティール組織の魅力を散々伝えてきた訳ですが、残念ながらティール組織に移行するための完璧なルートというのは存在しません。
私も初めて『ティール組織』を読んだ時に、トップダウン型組織に代わる新たな組織運営の凄いスキームだと思ったのですが、読後の率直な感想として
で、どうすればティール組織は作れるのか?
ということに関しては、様々な関連書籍も読みましたが、分からずじまいでした。
『ティール組織』を読み、我流でティール組織へと変革を進めた経営者は数多くいるかと思いますが、多くの場合が失敗に終わっていると思います。
どうすれば、これまで両立不可能とされてきた業績と働きがいが飛躍的に高まる組織を作れるのか?
この問いに対する答えは、ティール組織の一つの事例として、紹介されていた「SEMCO社」にありました。
画像出典:https://www.realone-inc.com/
実は、リカルドセムラーがSEMCO社を変革していった、新たな組織マネジメントの方法が、オランダのコンサルティング会社によって体系化され、「セムコスタイル」というメソッドに落とし込まれて、今、日本を含む世界15カ国で、ライセンスパートナー企業や私のようなセムコスタイルの認定コンサルタントによって広まりつつあるのです。
この「セムコスタイル」には「トップダウン型組織を業績と働きがいが飛躍的に高まる組織」へと変革するための明確なステップがあります。
この「セムコスタイル」についての具体的なメソッドは「セムコスタイルとは何か?業績と働きがいが飛躍的に高まる組織の作り方を徹底解説」という記事で詳しく解説をしているので、興味がある方はぜひご覧ください。
4.ティール組織についてのまとめ
今回の記事では、ティール組織の基礎知識やメリット・デメリットや事例などを様々な角度でお伝えしました。
ぜひ、今回の記事を読んで、自社の組織マネジメントを見直すきっかけにしていただけると幸いです。
また「業績と働きがいを飛躍的に高める組織の作り方」に関して、もっと深く学んで実践していきたいと思われた方は、私の公式LINEアカウントで配信されている無料の動画講座をまずはご覧ください。
この動画講座では、
- 平均成長率年間147%、離職率2%、就職人気企業ランキングNo.1を実現した!次世代型組織の作り方
- 単月売上過去最高!離職率3%を実現した歯科医院のコンサルティング事例解説
- 採用コストが1500万円から400万円に下がった化粧品メーカーのコンサルティング事例解説
- 年間の売上目標達成率80%から150%にまで大幅アップした動画制作企業のコンサルティング事例解説
などを解説しています。
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